二人の速度の計算
遅れて申し訳ありません。
気を取り直して。仕切り直した後の話。
「先ず、聞きます。今回貴方は縛られるまで誘拐に気付かなかったのですか?」
「気が付かなかった。」
己の迂闊さと間抜けを堂々と言ってのける。貴族の子息とは一体?
「本来、そこに至る前に気付いて逃げてほしいので、観察力や洞察力、危機回避能力が一番欲しいのですが、今回は逃げ足についてお伝えします。」
「いつもの魔法の勉強と、戦いはいいのかよ。」
言葉の後半に力が入っていた。随分と好戦的だな。
「今日は全日実践形式です。
今まで『身体強化』は何度か補助込みとはいえ使っていましたが、こうして一度意識して使ってみるのも勉強です。
今から鬼ごっこを始めましょう。鬼は私がやるので全力で10分の間、全力で逃げてください。その後10分休憩をして、また鬼ごっこを10分。これを昼間で行います。」
「半分休んでいいのかよ。」
「それはやってからもう一度言ってください。
さて、何かから逃げる時、魔法を使って逃げるとしたら、どうしたら良いですか?」
「普通に身体強化を使って走ればいいだろう。簡単じゃないか。」
馬鹿にされたと思って憤慨している。シェリー君の狙い通りだ。
「では、試しに走ってみて下さい。」
「わかったよ。見てろよ。」
『身体強化』
駆けていくクソガキ。勿論クソガキの元々の身体能力では到底至れない速さではある。
だが遅い。
魔力の認識が出来るようになった。
補助器具有りとはいえ模擬戦闘が出来るくらい魔法が身近に馴染んだ。
そして、あの火傷の痕から見る限り、自分の手に密着した物体を、視認せずに対象だけ焼き切る事には成功している。
火力の調整を間違って縄を膂力で引き千切れるまで焼いて身体強化で引き千切るというところまで頭は回っていないが、魔法の使い方はサマになり始めている。
だが下手だ。未熟だ。使い方を理解していない。
魔法とは漠然と使われず、詳細までイメージして使うものだ。
『身体強化』
『身体強化』
9秒経過。
全力で魔法を行使するクソガキよりも圧倒的に低い魔力量でシェリー君が動き出す。
地面が沈み込み、戻り、跳ぶ。
風を切って進み、それは耳元で騒乱となって聞こえる。
足の長さ、身体能力に大差は無い。
魔力量はクソガキが圧倒的に上。
魔力の変換効率は比較するのも烏滸がましい。
そして、使い方が全く違う。
1歩2歩3歩4歩5歩6歩7歩8歩9歩10歩11歩12歩13歩14歩15歩……
加速し、最高速度まで到達。そのままの速度を維持して最短距離を進んでいく。
シェリー君がスタートして3秒後、スタートした段階で見たクソガキの位置に到達した。
シェリー君がスタートして4.5秒後、スタートから148.5m地点でクソガキに並んだ。
「ハイ、追いつきましたよ。」
さぁ、2人の速度を求めてみよう。
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