茶番でお仕置き
翌日。
オドメイドは謹慎中。ということで、給仕は全て執事が取り仕切ることになった。
顔の怪我はない。が、顔色は少し悪かった。
コックの方はと言えば、朝見たときは晴れやかな顔だった。
その辺は元プロと言うべきだな。友人の事が一先ず吹っ切れて、今日の朝食は昨日の冷たい食卓とは打って変わってベーコンとソーセージがたっぷり入った熱々のラザニアだった。
表面のチーズからほんのりとスモークの香りがする逸品であったと言っておこう。
さ て と
問題はこっちだ。
今日も今日とて淑女の零に勤しむ家庭教師シェリー=モリアーティーの前にはクソガキがいた。
調子に乗っていたクソガキはどこへやら、今は塩漬けにした青菜のように萎びていた。
自分が誘拐されて、メイドは謹慎、それ故のこの有り様。
だからどうした?
誘拐はそもそもの始まりが当の本人主体の狂言。
乗っ取られたとはいえ、貴族の子息ともあろうものが隙を見せ、軽率な行動に走ったその迂闊さは責められるべきものだ。
メイドの謹慎とて、このクソガキがやらかし、それを諌めた結果だ。
全て、全て自分が撒いた種だ。
あぁ、まったく。
諌めるという意味ではあのオドメイドは最も効果的な手を打った。
今、クソガキは反逆の意思を削がれている。
耳を塞ぐ気力も無い。
変革を起こすなら、今だ。
「今日は、魔法を始める前に貴方に聞きたいことがあります。」
「…………なんだよ。」
項垂れたまま重々しく億劫そうに口を開く。
悲劇の主人公面するな、巻き込まれたのはこちらだ。
そして、ここからシェリー君は詰問する、しかも珍しいことに容赦無くだ。
両腕を半ば強引に掴み 持ち上げながら顔の前に手首を突き付ける。
有無を言わせずに目を合わさせる。
「これは、なんですか?」
「…………………」
シェリー君の反罪術式で大まかな怪我は無くなっている。
『これ』と言われる様なものはない筈だ。と考えただろう。
最低限不自然ではないように、細かい傷だけ残してあとは損傷を消した。が、1つ……正確に言えば2ヶ所には、他とは明らかに違う傷があった。
それだけは最低限の処置をして、敢えて目立つように残してあった。
「もう一度聞きます。
これは、なんですか?」
火傷。
他が無秩序につけられた打撲やすり傷、切り傷ばかりなのに対して、手首の周りにだけ、意図的についた帯状の火傷があった。
「手首を縛られ、無理矢理ほどこうとしてついた……とは言いませんよね。
これは火傷ですから。」
傷は目の前、そしてその向こうにはシェリー君の目。
「貴方は、何をしたんですか?」
「………………」
クソガキが腕を振りほどこうとする。
『身体強化』
シェリー君は魔法を使って応戦している。びくともしない。
『身体強化』
クソガキもそれに気付いて魔法で応戦する。
しかし、魔力量で勝っていても先手を取られ、技量で圧倒的な上を行くシェリー君に勝てるわけがない。
「もう一度、聞きます。
貴方は、何をしてこの怪我を負ったのですか?」
誰かにつけられたとは微塵も考えていない。というか、これは答えが解っている茶番で、そして仕置きだ。
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