友を思う友として。家庭教師として。
「あぁ、ところでのー、これはこっちで調べた方が良いかのー?
あの発明家先生の発明で毒が入っていたらすぐに解るって魔道具が商会にあるんだがのー。」
そう言って指し示したのはコックの見舞い品。
「いいえ、必要が無くなりました。お手数ですがそちらは…」
「こっちで明日の昼にでも病院に運んどくから心配せんでのー。」
「ねぇねぇねぇ、ところでこの後なんだけど、どうする?
あのフードは追いかける?それとも護衛に回る?」
その質問に一瞬固まり、そして笑みを浮かべて答えた。
「いいえ、必要ありません。お二人は通常の業務に戻って下さい。それは会長が解決いたします。
もし、次に襲って来るのであれば、その時は私が対応しますから。」
笑顔だ。なんの歪みも混じりっ気も無い、ね。
「……ねぇねぇねぇ、多分あのフードは負けるねぇ。」
「じゃのー。我らが会長相手に勝ち目は無いのー。哀れだのー。無謀だのー。」
そう言いながら車をその場で一回転させて二人は去っていった。
端的に言うと、疑っていた訳だ。
『貴族の家の子息が丁度町に出て狂言誘拐を企てた時に、偶然本物の誘拐犯が現れて本当に誘拐された。』
よりも、
『貴族の家の子息が丁度町に出て狂言誘拐を企てている事を知っていたから誘拐犯を手引きして誘拐させた。』
と、考えた方がしっくりくると思わないかね?
あのコックは最重要容疑者だった訳だ。
「もう容疑者から外れました。
本当に、本当に良かったです。」
力が抜け、その場で屈んで祈る様な形で息を吐いた。風船のようだ。
そして、何を祈っているのやら……。
「果たしてこれで、容疑者から外れたと言って良いのかね?証明には些か足りないと思うのだがね……」
「良いですよ。もしレイバック様が犯人だとすれば、見舞いの品の中には毒が入れられていたでしょう。怪我を負った穏健派の方々も事件の関係者。口封じの必要性がありますからね。
しかし、それを食べた私に毒の症状は出ていません。問題ありません。」
力強く言うが、あの状況なら十分毒を入れる手立てはあった。
そもそも、始末するなら間接的な関わりの穏健派より直接接触した可能性のあるタカ派を消すほうが優先されるべきだ。
それを口にしようとした私の先手を取るようにこう加えた。
「それに、その前に話をした時、彼の旧友を思う気持ちに嘘はありませんでした。
ちなみに嘘を見抜く方法は、教授から教わったものですよ?」
「OK降参だ。では、容疑者が減ったところで、君は次に何をする?」
「それは、決まっています。私は家庭教師なので、家庭教師としてやるべきことをやります。」
評価と誤字脱字報告いただきました。ありがとうございます。




