2位と招待状
正午 モーブ中央塔1階レストランにて。
「シェリー先生、食事までまだ時間がありますがどうされたのですか?」
希望的観測で戻って来ている……可能性は考えていないが、誘拐犯側からのコンタクトがあれば捕縛するためにということで早く戻ってきた。
だが、世の中そうそう甘くない。ここに来る前にウェイターに手紙を渡し、無事コンタクトを終わらせてしまう結果となった。
「大掛かりに仕掛けられない以上、ウェイターの家まで張る訳にもいかないからね。リスクを最小限に、そして確実に渡す手段という点で見れば理想的な一手だ。」
とはいえ、向こうは手の内を一つ明かしている。
「はい、私に手紙を渡すように依頼をされたのはモンテル=ゴードン様に間違いありません。」
「一緒に誰が居たか、覚えていますか?」
「い、いいえ。そんな人は、見ていません。」
観念したウェイターから引き出した証言に嘘は無い。
少なくともクソガキは手紙を渡した段階では、ある程度自由に動ける……完全放し飼い状態ではなく近くに監視がいる程度の状態だった訳だ。
あぁ、つまりそういうことだ。
「あのクソガキ、こちらがここまで手を尽くしているというのに、自分がどういう状況なのか、まるで解っていない。」
誘拐犯にとって理想的な人質は何か?
1位は生きていると相手に思い込ませた状態の死体だ。逃げない、抵抗しない、どこにでも仕舞えると三拍子揃っている。ただしバレたらタダじゃすまない。声を聞かせろというリクエストにも答えられない。万一の事態において最下位になる。原則お勧めしない。
そして栄えある2位が、自分が誘拐されていると思ってもみない能天気な人質だ。こっちも逃げない、抵抗しない、仕舞うことは出来ないが説得すれば自分で勝手に動いてくれるお陰で運ぶ手間が要らない。
クソガキは2位だった。
「………………」
「手元にあるものは最低限。
モラン商会の支援も最低限得たがこれ以上は見込めない。
手札はそれで打ち止め。」
更に続ける。
「だというのに向こうの狙いが解らない。
クソガキの狙いはこちらへのリベンジだが、犯人にはそんな茶番に付き合う意味が無いというのにクソガキの手紙をすり替えずにそのまま狂言誘拐用の手紙を使っている。
狙いが解らなければ手の打ちようがない。さぁどうしようか?」
挑発じみた疑問を投げかける。
無言だったシェリー君が深く息を吸って吐く。
肩に入っていた力が抜けた。
「決まっているじゃありませんか、折角のご招待を断るなんて選択肢は初めからありませんよ。
生憎と相応しいドレスはありませんが、謹んで応じましょう。」
「おぉ、クソガキを誘拐してしまった連中が不憫でならないな。」




