コインマジック
「さぁ、質問です。貴方は何のためにこんなことを……いいえそれは明白ですね。
貴方は誰に頼まれましたか?そして人質の場所はどこですか?」
戦意を喪失した大工風は組み伏せられていた。わざわざ人通りの少ない場所に誘導してくれてありがとう。お陰で野次馬が入らずやりやすい。
「知らない!知らない!頼まれただけだ!放せ、放してくれ、放してください!」
藻掻き逃げようとするが、そんなことは許さない。
「正直に全て話して、私に協力して下さるのなら、解放しましょう。
だから、嘘や隠しごとは貴方の為にも絶対に、避けて下さいね。」
辛うじて動く首を小刻みに振る。怯えて震えている様だ。
「頼まれたんだ!金を払うから町で子どもを探してる奴がいたら裏に連れ込んでやれって!だからお前を狙ったんだ!実入りの良い仕事だと思ったけど、こんなやばいとは思わなかった!」
「人を殴り殺す心算で、それがやばいとは思わなかったのですね……。」
「そんなの裏じゃ当たり前だからな。人を殴って奪って生きれるならそうするさ!
俺は他に知らない。頼んだ奴も顔を隠してたし声も男か女かよくわからなかった。
なぁ、貰った金は右のポッケに入ってる。全部お前にやる。だからもうやめてくれよ!」
右のポケットを改めると確かに金貨がそこには入っていた。
「……これは、頼んだ人から貰ったものですか?」
「そうだよ!それ一枚!それで全部だよ!」
怒りながら泣き喚くという面白い様子の大工風。シェリー君はそれに対して面白いものを見せる。
「こんなものが貴方の価値だというのですね。」
金貨を指先でクルクルと転がす。指先で輝くそれは弾かれ、金属音と共に上へ。
放物線を描きながら水路へと落ちていく。大工風があっと声を漏らすが、もう遅い。
回転しながら水面に波紋を作ったそれは汚水に沈み、閃光と爆音を伴って水柱を作った。
『気流操作』
汚水の雨が2人を避けて再度水路へと流れ込んでいく。
「…………は?」
大量の情報が大工風の頭の中を巡り、焼く。
「コイン爆弾、時間経過か条件が整うと起爆する代物です。爆発威力は低いとされていますが、御覧の通りです。
今回は私が起爆しましたが、後生大事に懐に入れていたら、あなたが雨になっていましたね、赤色の。」
それを聞き、震える。それは死の恐怖か、それとも…………。
「あの野郎!おい、放してくれ!俺もお前の人探しを手伝う!」
「何故です?」
「ここまでコケにしたやつを殴りたいんだよ!そのために手伝わせてくれ!」
「…………良いでしょう。では、貴方が依頼人と会った場所へ案内して頂けますか?
依頼料はこれで。」
そう言って懐から取り出したのは金貨。
「お前……そんなもん渡すなよ。今一番それは見たくない。ていうか、こっちが払いたいくらいなんだから。」
「そうですか、では後ほど報酬は考えておきます。」
「じゃぁ好きにしろ。行くぞ。」
裏通りを大工風は駆け抜けていく。
爆発した水路へ一度目を向け、手の中の金貨をしまった。
あれだけの爆発がありながら水路の底には傷一つない。
汚水が流れ、その底には無価値なゴミだけが沈んでいた。




