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光明は足が生えてこちらに向かってくるもの

 正午30分前のこと。


 現状手にしている情報。

・クソガキは本来会うべき連中と会っていない

・行方不明


 人の数が多い。

 当主の息子として認知されれば話は別だが、そうならないようにわざわざ庶民の服をあつらえ、袖を通している。

 事は裏路地で起こったと見て良い。

 となれば、白昼堂々と陽光に照らされて生きる人間がその瞬間を目撃している可能性は低い。



 別の酒場で。

 「男の子を見ませんでしたか?特徴は……」

 人気の露店の前で。

 「男の子を見ませんでしたか?特徴は……」

 大道芸のショーが終わった直後の場所で。

 「男の子を見ませんでしたか?特徴は……」

 人の溜まる場所で声をかける。シェリー君を覚えていた者、協力を買って出る者、質問を投げ掛ける者がいたが、決定的な目撃者は今のところ見つからなかった。

 虱潰しでは見つからない。

 だが、本命の収穫はこれからだ。




 「いったい、どこに……?」

 人の流れを避け、表通りと裏通りの間、人の知覚の狭間で立ち尽くす。

 「まったく手がかりがないなんて……なんで?」

 悲痛な嘆き。差しのべる善意の手はない。

 「あ、見つけた見つけた、こんなとこにいたんだね。」

 だがしかし、打開の一手はやって来た。

 金槌と釘、そして小さな鋸をぶら下げた作業着の少年が一人、シェリー君の元へと走ってきた。

 「迷子探しをしてる子がいるって人伝に話聞いて、棟梁から休憩時間無理矢理前倒しにしてもらって、間に合った、良かった!

 君が探しているのって10代前半で、今日は茶色の帽子に緑色の上着、黒いズボンに灰色の靴を履いている男の子だろ、僕見たよ!」

 「本当ですか?」

 「ほんとほんと!廃材捨てに行く時にそんなやつを見たんだ!まだそんなに時間は経ってないはずだよ。」

 「どこですか!」

 「案内する、こっち。」

 一筋の光明だ。



 やって来たのは汚れと汚物の固まった裏路地。設計者の意図に無い壁や建物があちこちに建ち、本来発揮するはずの機能性は喪われている。

 「本当にこちらでよろしいのですか?」

 「大丈夫!大丈夫!慣れてる慣れてる。こっちの方が近道だから。

 時間が経つとどこか行っちゃうし、ちんたらしてると棟梁が家建てちゃうから。」

 大工風の少年は慣れた足取りで迷い無く暗い路地を駆ける。

 「見たのはこの先の通り、まだこの辺に居るかも……あっあれじゃない⁉」

 ゴミが沈殿し濁った汚水の流れる水路の向こうに人影があった。

 「どこですか?」

 シェリー君が水路に身を乗り出して目を凝らす。

 「ほら、あそこあそこ!」

 左手で指し示し、すると視線は水路の向こうへと向く

 だから、静かに右手の金槌を振り下ろした。


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