成長も音は無し
ボォ
カラカラコロコロカラ カサカササラサラ……ファサッ
真っ暗な部屋の机に何かが無造作に置かれた。
乾いた何かが幾つもぶつかり合う様な音が響き、カラコロ机の上を転がる。
どっさりとカサカササラサラした物が机に置かれた。
真っ暗だった部屋に明かりが灯った。ランプに火が灯った。
真っ黒な部屋の壁に揺れる人影が映し出され、火に照らされてランプの中の油が光る。
さっき見た時よりも減っていた。異様に減っていた。
まぁ、あそこまで使っては止むを得ない事だ。
後程気付かれない様に補充しておくか…………。否、止めておこう。
減った油に気付くか否か。減った油が何を意味するかを理解出来るか否か。
考えられる余地を与えておこう。
未だそんな事を望むべくも無いし、そんな事は起こり得ない。しかし、それでも私の計算が狂う事を私はどこかで望んでいる。
「さぁ、では始めるとするか。」
机の上には幾つもの木の実、草、そして紙とペン。
座すと同時にペンを取り、紙にインクを刻み込んでいく。
サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ
正確無比で緻密精密の極み、しかし、迅速にして神速。
手首から先がぼんやりとした灯りに映し出されている。
しかし、その像は虚ろであり、サラサラという小さく響く音と共に高速移動している手首が止まらない限りは実像を結ぶ事はあるまい。
机の上を拭いているかの様にペンを持った手が右から左、左から右に動いている。
要は、世界最古の複製印刷技術。『手書きでの複製』が机の上で恐ろしい精度と速さで行われていた。
文字を書く速度が速過ぎて手首から先が高速振動しているようにしか見えない。
一文字を書く速度が速過ぎてペンを持って手を横に平行移動させているようにしか見えない。
私の能力はシェリー君の肉体に依存する。
私の能力とシェリー君の能力には天地の差が有ると思っているかもしれないが、知識や思考回路、感覚において違いは有っても肉体的には違いは無い。
シェリー君が空を飛べるなら、私も当然の様に、同じように空を飛べる。
シェリー君が腕を刃物で弾き飛ばされても直ぐに腕が生えるなら、私にも当然出来る。
(私の場合、腕を再生させるまでも無く壊死する前に腕を縫合するという手も有るが。)
シェリー君の肉体の限界が私の能力行使の限界であるという事だ。
ある程度知識や頭脳でカバー出来てもその能力上限は私に制約を与える。
しかし今、複製作業に用いている、ペンを持った両手は私の思い描く様に、何の制限も無く私の起こさんとする行動を実行している。
数時間前、シェリー君に出した問題20問。
苦手な問題や騙す気満々の悪意有る高難易度の問題の数々を、シェリー君は全て解いた。
所要時間は2分であった。
シェリー君は順調に進化を遂げ、私は私の真価をシェリー君により示せるようになった。
両手がそれぞれ別の文字を紙に刻んでいく。
私の能力はシェリー君の肉体に依存する。
シェリー君に出来る事までしか、私には出来ない。
それは、逆に言えば、私がやって出来ればシェリー君にも出来るという事。
今行っている、『両手でペンを持って複製するこの行動はシェリー君にも可能である。』という証明である。
両手でペンを持って全く別の文字を書くって一体どんなプリンターロボットでしょう?
因みに、両手とも残像を起こす超スピードで書けるので、最悪型落ちしたプリンターより速い可能性が有ります。
嗚呼、教授の影響を受けてヒロインがどんどん穢されいていく。




