カフェでのにぎやかでほがらかな一幕
『商いとは情報戦であり、知る戦いでもあります。
今目の前にあるものの性質を、商品価値、何処に需要があるかを知っていればどんな風に幾らで誰に売れば良いかを間違えずに良い商いが出来るのです。』
地獄の原風景を脳幹に焼き付けられながら、そんなことを耳小骨に刻んだ。
だから、いつ誰がここに来るかを知っていれば、その人がどんな人かを知っていれば、どこで何をしているかを予想することができる。
彼女がゴードン家で家庭教師をしているという話は極秘情報扱いで知らされていた。
ゴードン家の馬車が今日ここに来るという話は聞いていた。
3人は絶対行くと騒いでいたが、急ぎの仕事があるということで連行されていった。
稼ぎ頭はこの前の町の件であっちこっちを飛び回っている。また金庫番が絶叫する。
現場監督は相も変わらず監禁されて仕事をしていた。相変わらず死相が見える。
ということで派遣されたのは2人……
「久しぶりだのー。」
「ねぇねぇねぇ、覚えてる?」
振り返ったお嬢ちゃんは眩しい若人の目を更に輝かせて息を呑んでくれた。
「ファルツさん!デルビスタさんも!お久しぶりです。」
我らがモラン商会会長は忘れずにいてくれたらしい。
近くのカフェにて、ジュースやお茶を飲みながら。
「我らがシェリーお嬢さんが一生懸命働いてると聞いてのー。息災かのー?」
「ねぇねぇねぇ、手伝うことある?ぼ……私達ヒマ…手が空いているから手伝うよ。」
「こちらは息災です。ご飯もベッド良いものを頂いているのでご心配には及びません。
皆様も息災ですか?」
「「(副会長とイタバッサさん、あの元学園長サマを除いて)のんびりやってる。とても順調|だねぇ。」」
「それは良かったです。」
上司と部下の関係性を消して、ただの知り合いとして堂々と話す。
学園が燃え、建て替え直後に起きたスクールジャック事件。
犯人は学園長が主体となって隠してあった裏金を学園長諸共誘拐して今も見つかっていない。
裏金の強奪と学園長の誘拐事件の首謀者1名と共犯者2名。
当時は凶器を隔てて会話をしていた3人は今、紆余曲折上下左右乱高下を経てこの町のカフェでにこやかに談笑をしていた。
「いやー、にしても、間一髪だったのー。間に合って本当に良かったのー。」
小柄な肥満男、ファルツがひび割れた手で胸を撫でおろした。
「間に合った……とは?」
「あのねぇ、この町って安全な町だけど……そうじゃない場所もあるんだよねぇ。」
「詳しく聞いても良いですか?」
不健康そうな猫背の男、デルビスタは周囲を見回しながらヒソヒソと内緒話を始めた。




