その都市の名はモーブ
岩山一つを爆破してその残骸を町にしたとなれば、それなりのものを期待する。
「これは…………」
絶句していた。
「ここがモーブです。この町の建物から道から石像に至るまで、全て一人の方が手掛けられたのですよ。」
目の前に広がるのは大都市。
都市の中心には大きな塔。それを中心に大きな通りが放射状に広がり、我々はその大通りの入り口にいた。
大小様々、5階以上の高さのものも確認できる。
意匠も様々、複数の国の特長が散見される。
山だったものを吹き飛ばして同じ材質で造られていると言われても、観察しなければそうとは気付けない。
「素晴らしいですね。」
「あたりまえだろ、凄い人がつくったんだから。」
祖先の造物を誉められまんざらでもない様子。
「こちら側に来なかったことが悔やまれるほどの爆弾魔だ。」
魔法があるとはいえ、凄まじく精緻な術式によって編まれたことは明白だ。
大通りの幅は一定で、中心に向かって僅かに傾斜がある。
建物の窓や扉はガラスや木材でできているが、他は全て塗装した鉱物。
細部には人の手が入っているが、道の傾斜や建物の大枠、水路や橋、噴水までチマチマ削った痕跡は無い。というより、こんな都市一つを削っていたら石工を不眠不休で働かせても世紀単位で時間が必要になる。
つまり、だ。この都市は建物の窓枠や扉、水路や橋や噴水といった場所が、爆破された段階で既に大まかにできている必要がある。
魔法というものは便利で、爆発のエネルギーの指向性をある程度制御できる。
が、爆発を制御する難易度は火薬と同等。それ以上の場合もある。
つまり何が言いたいかと言えば……
「これだけのものを作れる先祖がいても子孫はこの様。
遺伝や血統なんてアテにならないものだ。」
「何を仰っているか理解しかねますが、あまり良い意味でないことは私にも解りますよ?」
向けられる視線は鋭いものだった。
「おっと、迂闊迂闊……。」
「じゃあボクは行きたいところがあるから。」
御者の執事にそう言って雑踏に向かう。
「モンテル様、ご一緒します。」
オドメイドはついていこうとするが、制止される。
「カテナに命令。
自分の好きな場所に行くように、買いたいものを買うように。
ボクは自分のお小遣いがあるから、その分も使っていいよ。じゃあね。」
足早に離れていく。
「あぁ、モンテル様、待ち合わせは……」
「昼過ぎにいつもの塔の下のレストランでしょ?
わかってる。」
後ろに手を振りながら今度こそ雑踏に消えた。
「気を付けてくださーい。」
オドメイドの声は雑踏へと吸い込まれていった。
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