クソガキとコックの作戦会議
その後、夕食の前のこと。
「ハッハッハ。派手にやられたみたいだな、坊。」
コックがボクを見て笑っていた。
「コック……なんでそう思うの?」
泥汚れはいつも通り洗われて服にも顔にもシミ一つ無いのに。
「そりゃぁ顔付きだ。
お前さんのことは歯が生える前から知ってる。離乳食だって俺が作った。不貞腐れた顔なんてゲームで負けるたびに、嫌いな野菜が皿に載ってると気付くたびに、家庭教師がクビになるたびに見てるんだ、見飽きた。
今の表情はどうだ?不貞腐れた上にいじけてる。自分で頬を触ってみろ、膨れてるぞ。」
いたずらしているクソガキみたいにニヤニヤしてこっちを見ている。
「不貞腐れてない。頬だって……膨れてない。」
今つぶしたから。
「坊、何かあったらコックに言いな。
こう見えてコック以外にもそこそこ色々やってきたんだ。料理以外にも好きな女の口説き方や、無人島に放り出された時の生き延び方、あとはナイフ持った小僧の畳み方くらいなら教えてやれる。
安心しろ、教えたことは俺と坊だけの秘密にしといてやるから。」
ニッコリ笑って片目をギュッと瞑った。
「じゃぁ、教えてほしいことがあるんだけど…………」
「良いだろう、俺から声を掛けておく。
何人呼べるか分からないが、面白がる奴等が多いから少なくとも5人は集まる。」
「面白がるって……」
何言ってるんだ?まじめに話をしているのに。
「坊、何か勘違いをしてるぞ。『面白がる』ってことはな、どんな真剣で真面目な奴より本気で全力でやるってことだ。」
「本気で全力?」
「真剣で真面目な奴が悪いとは言わない。
だが、そういう奴はどうしたって肩に余計な力が入るんだよ。肩に余計な力が入って、頭に費用対効果だの後先だの余計な柵を考えて、その分鈍くなる。
全力で本気でやってやろうって時はな、遊ぶ時みたいにワクワクしながらやるのが一番さ。」
「でも、それで勝てなかったら?」
「お前さん、落とし穴を作る時に色々と考えて凝った仕掛けをするだろう?
あの時の感覚でやればいいんだよ。落とし穴を避けた先に更に仕掛けるとか、落とし穴じゃないと思った瞬間に落ちる遅延型落とし穴とか、中々芸が細かい凝ったのをやってだだろ?あれのもっと凄いのを考えてみるんだ。
今回お前さんの相手は相当な相手だ、そう簡単にやられやしない。
どころか、思いっきりやったところでケガ一つしないだろう。
どうせ負ける。それなら、思いっきりやってやろう。
勝つために動く奴が絶対やらないような、奇策ってやつをぶつけてやれ。
勝利の女神様って奴はな、勝とう勝とうと思ってばっかりいる勝つことだけ考えている詰まらないヤツに微笑まないもんだ。」
ニッコリ笑った。




