知識と経験が才覚を降して後始末まで終える
『水流操作』で全身洗われていた。
体のほとんどが布で覆われていたから泥だらけにはなっていないけど、顔や指先、服のちょっとした場所についた泥を洗われている。
『目に入らないから心配しないでください。』と言われた。そのせいで自分が今やられている事がよく見える。
顔や手に触れた水の塊は泥を引き剥がしていく、きれいになっていく。
なのに、洗った後の体が全然濡れてない。
服だってそうだ。水の塊がそこを通ると水が濁って服がきれいになる。なのに服は乾いている。
水が通った時、冷たい濡れた感覚があったのに、それが通り過ぎた後はその感覚が一切無くなる。乾いている。
「濡れていませんか?」
本当は返事をするもの面倒だったけど、それは負け犬のやることみたいだったから、首を横に振った。
「『水流操作』は水に干渉する魔法です。
こうして自分が干渉する水分を正確に認識し、その中に流れを作って動かすことで任意の汚れや不純物だけを取り込むことができます。
自分が干渉する範囲を正確に認識して、その範囲を膜や袋で包む様にすれば、こうして速乾での水洗いが可能になります。
『地形操作』の次は、こちらも習いますか?」
悔しかった。ボッコボコにされた。それなのに……
「私が今、貴方を圧倒している理由は『知識』と『経験』の差あってのものです。
貴方は今、勉強を始めたばかりです。私より『知識』が少ないのは当然です。」
自分の方が頭が良いって言いたいのかよ。
「私は貴方より先に生まれ、貴方よりも体験する機会が数年分だけ多い。
だから貴方に『経験』の差で勝つ事ができます。」
じゃぁ一生勝てないじゃないか。自分より先に生まれたヤツには絶対勝てないってことだろ?
「しかし、貴方には魔法の『才覚』があります。
先天的に持った強大な魔力というものは、無い者が一生掛かっても手に入れることの出来ない、無い者からすれば素晴らしい宝物です。」
才能かよ。
「『知識』は私から貴方に渡すことができるものです。
『経験』はこれから貴方が積み重ねていくことができるものです。
しかし、残念ながら『才覚』は私が如何こうできるものではありません。
私の持つ知識を貴方に、私との経験を貴方に、渡します。それらを手にして、貴方自身の手で才覚を磨いて、私にどうぞ勝って下さい。
教える者にとって、教えた相手が自分を超えるということは何より喜ばしいことなのですから。
私は貴方が私に勝とうとするその心を応援します。」
どうかしてる……。
「さぁ、終わりましたよ。質問が無ければ夕食までの時間は休憩とします。」
そう言って、ボクの様子を確認して、泥沼に向かっていった。
『地形操作』
さっきまで泥だらけだった地面が動き出す。
泥が地面に吸い込まれていく。
ひび割れした地面が元に戻っていく。
昨日もあれだけ魔法を使ったのに、今日来た時は何の跡も無かった。
昨日、こいつが直していたんだ。しかも、あれだけやった後に。
コイツに勝つ未来が急に見えなくなった。
評価新たに頂きました。ありがとうございます。
そして、投稿時間がバラバラで申し訳ありません。




