逃げ出していたあの頃とは違う姿
「さあ。さあ。さあ。
守ってばかりではいつか致命傷を負いますよ。
右、左、上、次は下と思いましたか?違いますよ、後ろです。」
魔法がいつもより上手く使える。
「っ!」
『電撃』
火がダメなら電気だ!
「電気も火も、強力ではありますが、発動の難易度が高いという点が困りものです。
発動ではなく修得となれば、更に難易度は高くなります。
電気はある程度魔力で道を作って発動するので相手の死角にいれば命中率は落ちます。
何より、熟達した使い手でなければ、その規模の魔法は遅くて実用に耐えるものではありません。」
後ろから声が聞こえる。
「『身体強化』は基礎的な魔法で難易度こそ低いですが、火や土と違って自分の力を強めるだけ。
自分が普段から動かしている身体なので魔法は掛けやすい。
あとは動き方を工夫するだけで相手の意表を突く魔法ができあがります。 便利だと思いませんか?」
当たらない、当たらない、当たらない、当たらない。
どころか触れられもしない。
どころか見えもしない。
いつもより強くて、何でもできる気がした。
「あなたよりもたくさんの勉強をして、あなたよりもたくさんの練習をして、あなたよりもたくさんのことを経験してきました。」
「知らない!
お前の努力なんか知らない!
お前がどれだけ頑張ったかなんて知るか!
にげるなよ!
かかってこいよ!
ぶっとばしてやるぅ!」
半泣きだ。
情けない。
見苦しい。
みっともないったらありゃしない。何の解決もしない、無様だ。
「泣いても喚いても、意味なんてありませんよ。疲れるだけで、目の前が曇るだけで、己の惨めさを再確認するだけで、本当に、何の意味もない。
しかし、そうですね……『ぶっ飛ばしてやる』と、そう吼えたのなら、私も少しだけ、本気でお相手いたしましょう。」
先刻からシェリー君は魔法を使っている。ただし、一度に使う魔法は決まって一種類だけ、しかも調整して反応できる速度、対応できる出力で手加減していた。
だが、シェリー君の目が変わった。奥の手だけは抜きで、今できる全力を叩き付ける気だ。
「これから御覧に入れましょう。」
そう言って、ある程度距離を取るために背中を向けた。この表情を見たら、クソガキは間違い無く、戦意喪失していた。
だが、あぁ流石のクソガキだ、背中を見せたことに激昂して攻撃を仕掛けようとしている。
「ふざけるなよ……」
狙いを定めて、準備する。
使う魔法は火球。今までの比ではない膨大な魔力を込めている。
本来なら今のクソガキには到底制御出来ない力だが、履かせた下駄がそれを可能にしている。本来なら弾けている。あぁ、補足しておくと弾けるのは魔法ではなく本体の方だ。
「魔法を複数同時に使うというのは非常に難しいことです。
しかし、それが出来れば、魔法は全くの別のものに変わります。
私が出来る最高の形を、御覧に入れましょう。」
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8/17の 11-12時更新 [日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - 連載中の236 位にランクイン!
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