尾行
アイツは学校の廊下を何食わぬ顔で歩いている。
何故ああも堂々と歩いていられるのだろうか?
自分が場違いだと思ってよく死なないものだ。
ふらふらと歩いて後ろを振り返る事は無い。全然気付かれていないな。
それはそうだ。目立たない様に柱の陰や壁に隠れ、抜き足差し足で足を床に慎重に載せる。近付き過ぎて気付かれない様に、かと言って離れすぎて撒かれない様に…………。
廊下を呑気に歩く奴を慎重に追いかける。
何処へ行くのか解らない。しかし、追いかけている内に、確実なチャンスは来る。
そう思っていた矢先に、動きが有った。
歩く速度が少し速くなっていった。アイツは廊下を曲がると視界から消えていった。
バレた?まさか。そんな!
曲がった先の木製の階段が踏み鳴らされる音が聞こえる。明らかに速度が上がっていた。
こちらも足を速めるが、慎重に行く。
見失う恐れもあるが、見つかるリスクは避けたい。
確かに、バレた可能性もある。が、それ以外だった時は不用意な追跡は問題が起こる。
見つかる?それもそうだが、見つかった時にそれ以上に不味い事が起きる。
尾行されていたことに一度気付かれたらそれ以降、警戒される。という事だ。
どんなに完全な尾行でも、一度見つかれば警戒され、それは次回以降の行動の成功率を著しく下げ、仇討ちどころでは無くなる。どころか、姉様に嗤われる。
ここは慎重に。
大丈夫、足音は聞こえている。
相手は階下、それは容易に分かった。でも、うかうかしては居られない。
慎重にやっても、見失っては意味が無い。
階段をそろりそろりと歩き、足音を追いかける。
見つけた。
アイツは今まさに御手洗いに入ろうとしている所だった。
不浄により不浄なものが行くなんて………一体何の冗談かしら?
確認をしたところで後ろから姉様とミリが追って来た。
「オッホッホ……今何処に?」
流石の姉様も大声での高笑いはしない。でも、小さな声ではする。
「御手洗に。仕掛けますわ。」
小さな声で答える。
周囲に人は居ない。いける。
「ハハハ、私達も見ていても宜しいですか?」
ミリが小さな声で訊ねて来た。
笑顔で返した。
合図を送り、私達三人は御手洗へと入っていった。
御手洗いの構造は単純。
個室トイレ5つと掃除用具入れ、後は水道が有るだけ。
入った時には誰も居ない。
その代わり、トイレのドアが一つだけ閉まっていた。
中からは小さな呼吸音。間違いなく居る。
キュッ
水道の蛇口を捻り、水を出す。
排水溝の下の空間に合ったバケツを取って水を汲む。
個室に逃げ込んで安心しているのだろうか?
それとも塵芥がただただ自分の雑菌に蝕まれたか?
そんな事は如何でも良い。
トイレには入り口は一つしか無い。
そして、その入り口は閉まり、確実に中に居る。
袋の鼠だ。
キュッ
水がバケツの半分くらいに溜まった。
これから起こる喜劇を思い浮かべて顔が笑ってしまう。
一緒に来ていた二人もそれを見て察したのか、笑い出す。
(本当、馬鹿な奴。)
バケツを手に取り、個室の上部分目掛けて、思い切り水を投げつける様にかけた。
ジャバン!
中で何かが、落ちてくる水にぶつかる音が聞こえた。
その後直ぐに、雫が滴る音が聞こえて来た。
びしょ濡れになった音が聞こえた。
成功した。
私は二人に向かってほくそ笑んだ。




