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謝意であり謝意である

 『反罪術式:癒し(cure)手に敵(despite)無し(enemy)

 シェリー君が威嚇する巨大馬の首筋にそっと触れた。


 この術式は対象の構造を理解し、それを意図的に破壊して再度望む形に作り変えることで実質的に()す魔法。

 そもそも元の形や構造をよく知らない場合は、元の形を推測して作り変え、酷似した別物にするか、あるいは破綻しない様に完全な別物にする他ない。

 ピースが欠損していれば、欠損した部分は欠損した状態のまま作り変えるか、元の形から逸脱し過ぎない程度に改造して作り変えるか、あるいは代用品を用意して、それも破壊して統合するという面倒な手法を用いなければならない。

 どれを取ってもリスクやコストは無視できないものになる。


 ヒタマス=ゴードンの書いた『上手な大馬の育て方』のお陰で大馬の身体構造について学ぶ機会があった。お陰で内臓や筋肉、骨格といった元の形を詳細にイメージし、作り変える事ができる。

 血や汗は流れている。だが隔離されていたお陰でそれらは地面に残り、他の馬の混入物も少ない。

 巨大馬が暴れ、血と汗を流す。だが、その速さ以上に飛び散った血と汗が巨大馬の体へと戻っていく。

 汚れや干し草の破片が取り除かれ、赤黒いそれが足から這う様に傷口へと進み、傷口に潜り込む頃には鮮やかな赤に変わっていた。

 「ブルルルララ…………」

 殺意剥き出しの怒りは自分の身体に起こる奇怪な現象によって嚇しから本物に変わりかけた……が、その現象が己の害悪にならないことが解り、その現象を起こしたであろう犯人の顔を見て、殺意を引っ込めて大人しくなった。

 その間に、シェリー君は仕上げに取りかかる。

 周辺に散ったピースは集めた。

 頭の中に大馬の身体構造は叩き込まれている。

 あとは、元の形をイメージして、作り変えるだけ。

 表面にできた大きな傷口という傷口が口を閉ざす。

 骨に入った亀裂はパズルのピースのようにぴったりと合わさり、境界線(亀裂)が消えた。

 筋肉の破損は重要な箇所に限定して切れた糸を再度一本に作り変える。

 この巨体故に術式の対象範囲が広過ぎて魔力が足りず、全身完全に元通りとはいかない。

 だが、瀕死状態からは脱した。痛みの原因も大方無くなった。

 「1週間。大人しくしていれば、元通りになります。

 これが、今の私にできる、最大限……いいえ、限界です。

 全部治せなくて、ごめんなさい。

 そして、助けていただき、ありがとうございました。感謝いたします。」

 首に触れていた手をおろし、お辞儀をする。

 それは己の不甲斐なさと未熟さの謝意である。

 そして、同時にこの馬への謝意でもあった。

 「ブルル、ブルル、ブルル……」

 脚を小刻みに動かして鎖をカシャカシャと鳴らす。

 その目には少なくとも獰猛な光はなかった。


 対象の理解度を上げれば上げるほど応用が利くようになるのであの術式は本当に便利になります。

 そして、便利になればなるほど悪用されやすくもなります。

 Q.悪の組織に狙われたらどうしましょう?

 A.格の違いを見せつけられます。(教授or商会からの警告という名の実質始末)

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