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コックの仕事は後片付けまで


 「まったく、こんな深夜に面倒をかけさせて本当に済まなかった。」

 手慣れた様子で気絶した招かれざる客人らを縛り上げる。

 武器、仕掛けられた術式、自決用の毒等々……懐を攫い、ペン先に隠された暗器やタバコに偽装してあった逃走用の煙幕を目聡く見つけて取り上げる。

 コックが食材を下拵えするのとは訳が違う、手慣れ過ぎている。

 ナイフ相手に素手で挑んで善戦している辺りからもう確定事項ではあるが、明らかにそちら側の人間だ。

 「いいえ、とんでもありません。ところで、レイバック様はご無事ですか?

 毒の後遺症や、除去し損ねた毒などは……?」

 ニッコリ笑って丸太の様な二の腕を見せつける。

 「完璧だ。本当に助かった、ありがとう。

 お礼はまた改めて……朝ごはんのホットケーキで応えよう。」

 シェリー君の視線に気圧される形でコックがお礼の形を考え直した。

 「いいえ、私も家庭教師として必要なことだと思ったので、当然のことをしたまでです。」

 「家庭教師として必要なこと……か。」

 コックのその表情の理由は、解る。

 あの村で起こった出来事を見てここに招待した当主は別として、傍から見ればシェリー君は『お嬢様学校からやって来た世間知らずのお嬢様』だ。

 『幻燈』の魔法を使って強襲した相手を返り討ちにした挙句、飛び道具持ちを相手にして怪我一つせず、プロ仕様の毒を解毒して、その上で奇妙な魔道具を使いこなして多種多様な武器を使って圧倒した。

 家の主が呼んだとは言え、他所からやって来た輩がそんな堅気とは程遠い振る舞いをしていては、警戒せざるを得ない。

 「ウチのとこの坊は良い家庭教師を持った。良い師に出会った経験はその後の人生で光り輝く宝になる。」

 言いたい事がある。気になる事がある。それでも、それらを呑み込んだ。

 「……ありがとうございます、レイバック様。」

 「礼を言われる筋合いは無い、人に歴史ありだ。

 若かろうが老いていようが、人というやつは多かれ少なかれ他人様が滅多にお目にかかれない出来事に一度は出会うもんだ。それをいちいちああだこうだと目くじら立ててりゃキリがない。

 それに、過去に意味なんざ無い。重要なのは今目の前にいる相手がどうかだ。

 過去云々よりもそっちが重要だった。それだけだ。」

 猛禽の目の奥に優しさを湛え、笑顔を向ける。

 「……貴方の目が正しかったと証明するために全身全霊粉骨砕身努めます。」

 「無理はしないようにしてくれ。

 少なくとも家庭教師の先生が晩飯までいた試しがなかったんだ。十二分にやってると思うぞ。あくまでこれは、コックの戯言だがな。じゃぁ、おやすみ。

 解毒の魔法については墓まで持っていく。何をされたか解らないしな。」

 大荷物を背負ってコックはその場を後にした。


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