定型を離れて、その上で基本を押さえて
H.T.はイメージした形を作り、その形を魔法で固定して様々な武器を再現している。
使う魔法は初歩だ。が、自由度が高過ぎてイメージ通りのものを再現する際の難易度は高い。
戦闘中に形状をコロコロ変えるとなればなおのことだ。
しかし、だからこそ今、目の前の不侵者を翻弄出来ている。
大剣を大槌に変えて、線の攻撃を面に変えた。だから受け流し損ねた。
大槌を槍に変えて、近距離の間合いを遠距離の間合いに変えた。だから間合いを見誤った。
槍を長剣に変えて、間合いの死角をスポットライトが当たる間合いの中心に変えた。だから今、舞台の中心に飛び出した。
魔力を精密にコントロールして瞬間的な変形を行い、その変化に対応する武器の運用をする。
その上で相手の動きに対応して手札の切り方を瞬時に変える判断が要求される。
これらを十全に使ってやっと後出しじゃんけんが出来る。
無駄な魔力の使い方をして変形させれば前衛芸術を作ることになり、形状変化に対応出来ずに武器を扱えば道化になる。
長剣を2本で受ける。
が、反射的に受けたお陰で体勢が崩れる。
その隙にまた武器が変わる。今度は棍だ。
地を転がるこちらに対して容赦なく突きが連続で放たれる。
避ける
地を穿つ
避ける
地を穿つ
避ける
地を穿つ
棍が判のように地面に痕を残す。これが自分の体に起こっていたかと思うとゾッとする。
このままやられっぱなしではもたない。反撃のために飛び上がって距離を詰める。
棍が真っすぐ突き出される。狙いは眉間、全く躊躇いが無い。
今は棍。一直線の棒だ。目は離さない。
片方のナイフで棍を流しつつもう1本で止めを刺す。
「後方注意ですよ。」
ナイフが迫る中、そう聞こえた。
「うが……」
後頭部を思い切り殴られた。
棍の先が折れて不侵者の後頭部に命中していた。
当然、折れたというのは比喩で、シェリー君が意図的にやったことだ。
見かけが棍だからといって、棍との戦い方をしてはこうなる。
H.T.は自由な形と幅広い戦闘を可能とする魔道具なのだから。
後頭部を打ち付けられ、目の前に火花が散る。
歪む視界、力が抜ける手足、ナイフを落としそうになるが、最後の力を振り絞って投げる。
一矢報いる。せめて終わるなら最後に。
それは真っ直ぐ小娘の心臓目掛けて進んでいく。
「俺を忘れてくれるなよ。さっきまで仲良くじゃれあってたじゃないか。」
コックがナイフを掴んで、止まった。
不侵者が崩れ落ちる。これで全滅。掃除はおしまいだ。
「レイバック様、急いで解毒を……」
シェリー君が慌てて解毒の準備を始める。が、コックは笑ってナイフを掴んだまま、その手を見せる。
「この通り、刃には触っていないから心配無用だ。」
的確に柄を掴んでいた。




