毒耐性が高い系ヒロイン
安全圏で見ているクソガキの目に気付いている。
だが、それに手を振って答えるほどの余裕はない。
もう一つの対戦カードは未だ続いていた。
コックは素手。
相手はナイフ2本。
本来なら立場的に得物が逆な状況で、本来なら不利なコックが善戦していた。
相手の筋肉モリモリマッチョマンの不法侵入者は幾度か打撃を喰らってアザが出来ていた。
対するコックは険しい表情で汗こそかいているものの、出血は皆無だった。
「刃物相手によくやるものだ。」
……だが少し厄介なことになっているな。
ナイフに目を向ける。成る程そういうことか。
シェリー君も気付いて顔色が変わった。
「早く助力を。」
迂闊にも近付こうとするシェリー君。
「おっと待った。先に訊いておく。どっちに手を伸ばす?」
「レイバック様です。」
「それはリスクだぞ?目撃者だって居る。」
「それは見捨てる理由になりますか?なりません。
もし、なるというのなら、教授の『リスク』が『リスク』でなくなるように、今から私が行うことが陳腐になる様にするだけです。」
「楽しみに待っていよう。」
何せそれは君が生み出したものだ。君が未だ成長するのなら、十分考えられる。
『反罪術式』
コックの元へと向かい、肩に触れる。
それだけだ。それだけで一切変化が無い様に見える。
だがコックの険しい表情が和らぎ、驚愕の表情に変わった。
「驚いた、どんな魔法を……いや、助力に感謝する。」
詮索しない玄人はこれだから話が早い。
「どういたしまして。
明日の食事にも期待してよろしいですか?」
「おおとも、何が食べたい?」
「……子どもっぽいオーダーでお恥ずかしいのですが、シロップたっぷりのホットケーキは、ダメですか?」
「良いとも。ホイップクリームとフルーツもつける。」
コックが手をゴキゴキと鳴らし、改めて構える。
ナイフを持った不侵者はこちらが何をしたか、未だに気付いていない。
シェリー君はそちらに向かって言葉を突きつける。
「随分と素敵な方法を使うのですね。夜中に無遠慮に土足で入り込んで、シェフを相手にそんなものを使って、一体何が望みですか?」
表情は硬い。そして悪意や殺意、害意こそないものの、その目は許されざる者に向けられるそれだった。
「なんの話だ?」
含みのある言い方に対して構えを解かずに惚ける。目の前の小娘がただの小娘ではなく少なくとも2人を始末している事を評価して小娘には過ぎた警戒をしていることが解る。
「虫と蛇と花の花粉。」
シェリー君が一見ならぬ一聴すると意味不明な言葉を口にして、ゆっくりとナイフに視線を向ける。
コックは何のことかと首を傾げたが、不侵者の表情が険しいものになった。
「それを、どこで?」
「彼の解毒は済んでいます。解毒するのはその正体を知らねば話になりませんよね?」
最大級の警戒と憎悪に似た殺意がシェリー君に向けられる。
だが、シェリー君も負けていない。
「私も、怒っているのですよ。」




