本職のような仕事/本職の仕事
「お手伝い、誠にありがとうございます。モリアーティー先生!」
三度目の声掛けでやっとシェリー君が我に返った。
「はい。
ぁ、失礼いたしました。」
慌てるシェリー君に対して執事は一切動じていない。
「とんでもございません。
お手伝いいただき誠にありがとうございます。
想像以上に進行して大助かりです。」
「そんな、私は全然……」
手元に残っていた本を慌てて本棚に戻した。
天地、小口を見て、中身を一頁一頁確認する。
汚れや書き込み、劣化や濡れた跡といった破損状態を確認し、問題がなければ次へ。
一定冊数積み上がればそれを棚へ。すると棚が下へと吸い込まれて、次の棚がやって来る。
これを繰り返すこと一時間分、体感8日間分。
地下にある総数と比較すれば当然微々たるもの……微々たるものだが、総冊数は今戻したばかりのもの含めて計1295冊。
「早く、その上正確。本職の方かと思いました。このお礼は後程必ず。」
「そんな……謹んで遠慮いたします。こうして貴重な資料を見せていただき、ありがとうございます。
お蔭様で、非常に参考になりました。」
「……何かご所望の書籍がありましたら、遠慮無くお申し付けください。
差し上げることは私の裁量では難しいですが、貸し出し程度であれば私の裁量内です。」
「ありがとうございます。それでは、必要になったときにはご相談いたします。」
その日の晩も、三人の食事だった。
「これは…………一体?」
「………何かしら?」
二人は目の前のものを見て、呆気にとられていた。
それは、陶器製の蓋付きのボウル。正直、高価な品とは言えないがそれが腕の良い職人の手によるものだということはわかる。
「シェフより、今日は前職で出会った異国の料理、『ドンブリ』を振舞いたいということでした。」
「ドンブリ?」
「異国の料理……ねぇ。」
蓋があって中身が見えないおかげでそれが一体何なのか、想像すら出来ていない。
知らない人間からすれば蓋を開けた途端に中から生きた怪生物が飛び出す想像さえ出来る状態だからね。
「はい、『ドンブリ』とは、異国の食器を指し示す言葉であり、本来はその深い陶器のボウルの事を言います。
本来はドンブリボウルを使った料理群は『ドンブリモノ』というのですが、炊いた穀類と主菜をドンブリボウルに盛り合わせた料理群のことを省略して『ドンブリ』と呼ぶこともあるそうです。
古くは海外の交渉の場において重要な役割を果たしたとも言われている伝統的な料理とのことです……。」
熱意の籠った演説に呆気にとられている二人を見て、執事が我に返った。
「給仕するまでの時間に料理が冷めないようにと蓋がついた構造になっていますが、どうぞ、お早くお召し上がりください。」
参考:
https://www.weblio.jp/content/%E4%B8%BC
https://www.weblio.jp/content/%E3%81%A9%E3%82%93%E3%81%B6%E3%82%8A%E3%82%82%E3%81%AE
リアクションがものすごく増えて、感謝感激です。
本職曰く、『1時間でその量は厳しい』。とのことです。
『図書館の本はコーティングされていて扱いやすいが、このレベルの古書をその速度で確認するのは怖い。』とか。




