モリアーティーの書評6
・『音楽都市地図』
海に面したとある音楽都市の地図。ここは『芸術都市』とも呼ばれ、現在も音楽と芸術の聖地とされている。
歴史についても記載があるが、その都市の始まりは一人の高名な芸術家が絵を売った金を全てつぎ込んで作ったとされている
芸術家の審美眼、こだわり、そして有り余る資金を惜しみなく使った結果、都市全体が芸術を育む理想的な環境であり、同時に一作の芸術品となっている訳だ。
今見ることが出来るのは、紙切れの上に描かれたもののみ。だが、これを作ったという芸術家の意図がそこから読み取れる。
私は、それに敬意を表する。
機会があれば、表敬訪問をしよう。
・『死霊魔法』
死体の腐敗を抑制する魔法、死体を死蝋化させる魔法、死体の内部を弄って見てくれを整える魔法……前半には葬儀屋の用いる死体魔法について書かれていた。だが、現在葬儀屋が使っている魔法を『死霊魔法』なんて呼ばない。これはどういうことか?
答えは後半に書いてある。
死体から漏出した魂を魔力の檻に閉じ込める魔法、死体に仮の魂を定着させる魔法、仮の魂に命令式を書き込むことで死体を精度の高い操り人形にする魔法…………。
あぁ、前半のそれらとは違い、使い方が透けて見えている。
『死霊魔法』があり、その一部だけを切り取って葬儀屋が使っている訳だ。
切り捨てた部分を使う人間がいるとすれば、それは葬儀屋ではなく葬儀屋を忙しくさせる『商売人』くらいのもの。
当然のように、教科書には載っていない魔法だ。
・『黄金海水質調査報告書』
この世界には文字通り、黄金に輝く海が存在する。
水面下に沈む黄金の輝きが陽光を反射させ、眩く水面を照らすのだ。
だが、これは一世紀前の書籍。
欲深な人間は水面下の輝きに見入られ、それを奪い尽くして、もうその幻想的な光景は存在しない……と思っただろうが、そんなことはない。
この幻想的な黄金の海に入ろうとすれば、身体が溶け落ちる……その表現も違うな。
溶けて海の輝きの一部になる。
この報告書に書かれていることを見る限り、その水質は完全に劇物だ。
揮発した気体が上空を飛翔する鳥を落とし、雲に混じって周辺に猛毒の雨を降らせる。
故に、黄金を隠す緑はなく、黄金に伸びる手も無く、黄金はより一層、神々しく、妖しく、艶かしく輝く。
なに?魔法があるなら毒の雨くらい問題ない?
それなら、劇物に囲まれた状態で、その中で生きるガラスの様な鱗と黄金の牙を持つ狂暴な怪魚を相手に魔法で対処出来るかね?自信があるなら試すといい。
ちなみに、飛沫は鋼の刃を腐食させ、揮発した気体は肺を蝕み喘息を引き起こす。
著者らは各分野の精鋭を揃えたにもかかわらず大半が病院送りにされ、この本の半分は病院のベッドで書かれているので、そのつもりで。
7、確定しました。非情に、楽しかったです。
黄金海、実は既出です。覚えている方がいたら、素直に拍手いたします。




