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あちこち歩いて出会って見つけて見つからなくて

 今日は気まぐれで早くに投稿です。

 懐にはH.T.

 誰もいない廊下を通って向かった先は裏の牧場に続く入口。

 「………………」

 何も言わず出入り口前で立ち止まり、H.T.で閂を外して扉を開ける。

 「………………」

 四角く切り取られた無人無馬の牧場が見えるだけ。

 変わったところは何もない。

 「どうかなさいましたか?」

 牧場へ歩を進める直前、後ろから声がかかった。

 執事だ。

 「あぁ、バトラー様。

 いえ、通りかかったところ、壁の向こうがあまりに静か過ぎたので、何があったのだろうと思いまして。」

 「あぁ、昨日の件があったので本日は全頭厩です。

 目立った怪我をしたもの、落ち着かない様子のものはいなかったのですが、念のためということで。

 様子は私とレイバックの2人で見ているので、ご安心ください。」

 「なるほど、そういうことでしたか……。

 ちなみに、あの混乱について解ったことがあれば、教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 「解ったこと……と言いいましても、原因は坊ちゃんの悪戯だということと、今は皆非常に落ち着いているということだけしか……。」

 「悪戯に使ったというものは、残っていましたか?」

 「いいえ、坊ちゃんの言葉を頼りに探しましたが、一切見つかりませんでした。」

 「そうですか……」

 「何か、気になることでも?」

 「いいえ、物質か魔法かは解りませんが、大馬にあれほど作用するものについて見たことも聞いたことも無かったので、残っているようなら後学のために見せていただきたいな……などと思っただけです。

 ところで、これから厩に向かわれるのですか?」

 「いいえ、厩で少し服が汚れてしまったので着替えてこれから戻るところです。」

 「あぁ、お仕事のお邪魔をして申し訳ありませんでした。お疲れ様です。」

 「いいえ、先生こそ、お疲れ様です。」

 執事はお辞儀をして入口へと向かっていった。

 その袖は僅かに黒く汚れていた。




 「貴女、調子はどうかしら?……悪くなさそうね。」

 部屋に戻る途中のこと、聞き覚えのない声に呼び止められた。

 「……あぁ、お医者様の方ですね。診察して頂き、ありがとうございます。

 お陰様ですっかり良くなりました。」

 迷わず近付いて頭を下げた。それに対して、相手は首を傾げた。

 「……あら、なんで解ったのかしら?白衣は着ていないのだけれど?」

 「私は、失礼ですが貴女と会った覚えがありません。しかし貴女は私を知っている。

 であれば貴女は外部の方で、私が気付かない時に一方的に見たことがある人。

 その条件を満たすのは、気絶した私を診て下さった方、お医者様だけですよね?」

 「正解。それだけ頭が回るなら大丈夫そうね。私はアーティン=ジョーウィ、よろしくね。」

 「よろしくお願いいたします。」




 部屋に戻るとコーヒーの良い香りがした。用意された3つのカップには当然真っ黒なコーヒー。そしてお茶菓子として小さなクッキーも添えられていた。

 大き目のミルクピッチャーとシュガーポットが用意され、2つのカップの中身はキャラメル色になっていた。

 「ウマい……」

 「………生き返りますね。」

 2人が恍惚としていた。



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