嵐の前
「教授は一体何を考えていらっしゃるのでしょうか?そして、一体お三方は何を企んでいるのでしょうか?」
シェリー君が落ち着かない様子で授業を受けている。
この授業中、あの三人は同じ空間で授業を受けているにも関わらず、シェリー君に対して何もしてこない。
先程の授業はあの三人がいつもの席に座った後、授業開始の鐘が鳴る寸前に私達は後ろに座った。
無論、相手に何もさせない為だ。
三人の座る席が同じだと知り、今居る人間の配置と三人組の投擲能力を計算。シェリー君に当てたくても当てられない場所に座らせた。
しかし、今回は違った。
わざと最初に後ろの席に座ってあの三人組の様子を見てみる事にした。
そうしたらどうだろうか?三人共こちらを一瞥して不敵に笑うと、いつも通りの席へと向かっていったのだ。
最後尾のこの席は小娘が考え得る射線全てを骨格的、物理法則的に封殺している。あの席ではどうやった所でこちらに当てる事は出来ない。
当てる気が無い。しかし、意味深な笑いがシェリー君の心をかき乱していた。
「何をして来るかは大概解るが……落ち着きたまえ、予想通り、計算通り、プラン通り、私の思うままに動いている。」
まぁ、不気味に見えるだろう。普段危害を加える人間が何もしなければ何かを仕掛けてくると思うのは必然。
そして、それは予想通り、大正解だ。
この手の子どもが考える事は、事が自分の思い通りにいかない→癇癪→別の、しかもより性質の悪い方法で嫌がらせを再開する。というのがお約束だ。
そして、残念ながらそこまでが私の計画通りだ。
犯行を眼に見えるあんな場所で堂々と行う等というのは愚の極み。
やろうと思えば遅効性の毒を使った針という方法や蜂のフェロモンを相手に擦り付けて猛毒蜂に襲わせて事故に見せかけると言った方法も有るが、手っ取り早い方法は相手に意図的に手法を変えさせることだ。
君達が隠密性全開、悪趣味全開で手を打って来るなら、こちらはより性質の悪い手法で返せるというもの。
悪どさと悪趣味さと悪辣さにおいて私に利がある。
慣れない手法で予想外の変数だらけにする事でこちらが一方的にやりやすくなる。
さぁどうぞ、お嬢さん方、お先にどうぞ。
そして最後に笑うのは私達だ。
授業中は仕掛けて来る事は無かった。事態が動いたのはその後だった。
「ハハハハ。じゃぁ、前の取り決めの通り、私が先鋒で行かせて頂きますね。」
「フフッ、お手並み拝見させて貰うわ。」
「オーッホッホッホ!頑張りなさい。」
娘(小)、ミリネリア=レッドラインは授業の鐘の音と共に何処かへ消えていった。
残る二人はただシェリー君に悪意有る笑みを向けていた。
こちらがそれを見ているとも知らず。
『あなたが深淵を覗くという事は、深淵もあなたを覗いている。』
君達が覗く深淵は君達を奈落へと引きずり込む。
さて、娘(小)は何をするか?そして、どうなるか?




