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胸の悪くなる遊戯と歯車

「ハハハッ、全く………生意気!的が無くなっちゃった!」

小柄な少女は授業終わりの廊下で、笑っているのかと思いきや、直ぐに地面を踏み鳴らすように怒り始めた。

原因はたった一つ。いつも前の席に座っていた小娘、シェリー=モリアーティーが後ろに席を移したからだ。

しかも、座った場所は自分達から一番遠い場所。何かを投げようにも当てるどころか届かせる事も出来ない。

更に間の悪いことに三人とシェリーの間には幾人もの身分と由緒の有る令嬢が何人も座り、まるで投げる事を諦めろとでも言いたげに妨げとなっていた。

「ホッホッホ!これで今週も私の勝ちね。」

小さな少女の横には小さな少女を縦に大きくしたような顔や声がそっくりな大きな少女が居た。

「フフッ、フフフ……姉様?未だ勝負は終わっていなくってよ。

そして、ここから私が勝ちますわ。」

その横には小さな少女と大きな少女の間の大きさの少女。中くらいの少女が笑っていた。


少女達はアールブルー学園所属の生徒で名前をそれぞれ、

大きな少女が『メーテル=レッドライン』

中くらいの少女が『セントレア=レッドライン』

小さな少女が『ミリネリア=レッドライン』

と言った。

名前と容姿で解る様に三人は同じ家の三姉妹。三つ子であった。

「ハハハッ。でも、このままあの的が逃げたら勝負が出来なくなってしまうわ!」

「オーッホッホ、なら簡単な話。ルール変更をすれば良いのよ。」

「フフッ、では、こんなのは如何かしら?『一人ずつ(アレ)に仕掛けて一番面白かった者が勝ち。』というのは?」

中くらいの少女が笑いながら二人に提示した。

「オーッホッホ!……妥当では無いの?良いでしょう。その勝負、受けて立ちましょう。」

大きな少女は胸を張って自分と似た二人を見る。

「ハハハハッ!笑わせないでよね。私がここから形勢逆転してあげる。

二人共覚悟なさい!」

小さな少女は同じ顔の二人をキッと見上げながら睨む。

「フフッ、フフフフフ。

残念。私には勝てない。こんなの簡単よ。二人共返り討ちにしてあげる。」

同じ顔、違う大きさの三人の少女がそれぞれ特徴的に笑い出した。

廊下に三重奏が響いた。

ここに三人はルール変更をした上で新たな勝負へと突入していった。


ルール。そう、ルール。

三人はゲームを行っていた。

行われるのは授業中。いつも同じ場所に座り、それぞれが丸めた紙を的に向かって投げ、当たったか否か、どこに当たったかで得点を決めるゲームを行っていた。

的。そう、一番前に座る身分が低い、場違いな小娘である。

目下格下の者故に反逆は出来ない。

その傲慢が産み出した何とも悪趣味なゲームであった。

ギャラリーは先生と周りの生徒、自分達はスポットライトを浴びる選手。

投げるはナイフ、狙うは木の的。

頭に当たれば大当たり。

腕に当たれば中当たり。

足元に転がってぶつかれば小当たり。

体に乗ったら超大当たり。

机に乗せれば超々大当たり。

泣き出せば超々々大当たり。

的が逃げるは許さない。

当たって砕けて楽しませなさい。

何故なら的はその為に有るのだから。


本人の知らない所で度し難いゲームの的にされ、ルール変更をされて更に酷く巻き込まれる少女。

しかし、この時、もう既に、この行動の全てがとある目的の為に動く見えない装置を動かす歯車として組み込まれていたのであった。

それを知る者はこの世で一人、装置を作った人間だけである。

装置は着々と目的へと動き出した。


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