三つ首の犬は手中へ
私が何を決めたかって?
あの三姉妹を焼き殺す?まさか。
無駄な争い事を好む血気盛んな教授に思えたかね?
私はただ、シェリー君に後ろの席へと座らせただけさ。
後ろの席で黒板と自分のノートを見ながらシェリー君は困惑した様な、否、困惑した顔で座っていた。
「大丈夫でしょうか?」
「全く、非道いではないかね?全く何も考える必要性の無い簡単な話だ。
教師から教えを乞えないならばこの教授から乞えばいいだけの話ではないかね?私は君にしか見えないし、私が君以外に力を貸す気は無い。
ならば私から乞うべきでは無いかね?私の技量を見ての通り、知っての通り、私以上に勉強を教える者としての適任は居ない。」
これは誰もが知る事実だとも!
シェリー君に隙有らば、毒物、薬物、人体構造、話術、読唇術、読心術、モリアーティー式剣術、モリアーティー式拳闘術、駆け引き、暗号解読、数学、医療、心理学、物理学、化学、その他諸々……かなりの種類、かなりの量、かなりの精度で教えている。
その成果は推して知るべし。今となっては年頃の娘と侮ってチンピラが立ち向かえば一瞬で寝かしつける事が出来る。
「いえ、そういう訳では…………。」
言い辛そうにシェリー君が私に対して口篭もる。
シェリー君は別に最前列に質問の為に座っていた。しかし、この文章の過去形は何処から何処までか?
答えは私がシェリー君に教える迄だ。
当然私はシェリー君が解る様に教えているし、単純な教え方では伝わらない場合や苦手やその他傾向を把握している。
『教師なんて必要無い。』正直そう言えなくも無い。実際必要無い。
強いて言えば、未だ魔法は概念や理論こそ知っているが、私は未だ実用の域には達していない位かな?
今の所私が使える魔法は、火打石や薬品やその他私が使う道具には一歩劣る。
要は慣れない、練度の低い魔法をわざわざ使う意味が無い。
その他ならなんてことない。
………話を戻そう。シェリー君は質問する必要性が無かった。あの場に座っている必要等無い。
しかし、彼女は座ろうとしている。何故か?
それは、『シェリー君は前に座ることが最善手だと思った。』という事だ。
シェリー君は前の席に居る事で質問が出来る。しかし、ゴミをぶつけられる憂き目にも遭う。
が、逆に言えばそれだけで済む。
シェリー君としては後ろの席に下がる事で起こるそれ以上に厄介な、未知の出来事を警戒していただけだ。
あの単純な小娘共が自分達の玩具を取り上げられて癇癪を起こした場合、紙屑以上の何かに曝されるのではないか?乙女の想像力は貧弱な大中小の小娘を三つ首の犬へと化かした。仕立て上げてしまった。
だからこそ私は後ろへ下がらせた。
教師の話そっちのけで三人の小娘が悪意を隠す事無くこちらへと向ける。
膨れ上がった幻想は如何するか?これは夢だ。現実を見ろと言うべきか?
残念ながらシェリー君の先入観や偏見はそんな言葉ではどうにもならない。
ならば残る手立てはただ一つ。大中小の小娘を倒す事だ。
幻想で幾ら肥大化しても、この教授を倒せる魔物としては些か役者が不足している。
私は決めたよ。『次はあの三人娘だ。』という事をね。
さぁ、君達は既に私の手の中だ。
君達の術は全て打ち砕こう。
この教授が、ね。
死亡フラグですね。
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PS:読唇術と言う、あまり日常で聞かない単語がありますが、これは相手の唇を見て何を話しているかを読み取る技能のことです。
PS2:読唇術が二つあったのを気付かずに誤字報告の削除を何度もしてしまい申し訳ありませんでした。穴が有れば入りたい。
そして、辛抱強く誤字訂正して下さった善意の方。有り難う御座いました。
以後、気を引き締めてまいります。




