夏休み前後の推理
少し長くなります。夏休み前編にて残っていた謎諸共ここで教授が解き明かします。
賊達が目を覚ましてよろよろと立ち上がり始めた。
まぁ、元々締め上げて落とそうともしていなかったから当然だがね。
「ヘヘ…ヘヘヘヘ………ヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!」
壊れた様に髭面が笑い出す。
「残念だったなぁ!玩具が縮んじまってよぉ!」
「……………ハァ、知っていましたよ?」
呆れ顔をわざとらしく作ってみせる。
私が気付かない訳が無い。
考えてみたまえ。シェリー君が最初に倒した賊は一体どれだけの食料を要求した?
『500食』だ。
では、囚われていた村人は二つの村、合わせて何人だった?
『129人』
賊の総数は?
『371人』
379+129=500 確かに、それなら計算は合っている。囚われていた人間が満足に食べられていたか?自分達だけ食べていたか?そう言った可能性はあるが、シェリー君の計算では合っていただろう。
が、シェリー君は気付かなかった為に蛇と熊を計算に組み込んでいなかった。
371+129+2=502……では無い。
あの巨大熊と大蛇を人間と同様に考えてはいけない人間以上にあの巨体であるなら余裕で食べる。
計算が合わなくなる。
野放しにして餌を自前で調達させていた?
村の反対側、シェリー君がここに来るときに通った丘には暴れた痕跡が有った。が、賊の本拠地の山側には蛇の痕跡も熊の痕跡も無かった。
そもそも、この辺り一帯にあの二匹を餓死させないだけの潤沢なエサとなる生物は居ない。
ならば山の反対側の入り口からか?何日もかけて食事をさせるのかね?
人間を餌にした?村人はキッチリ欠けずに居るさ。賊が自己犠牲で自分を熊に食わせたというのなら話は別だが、人を奴隷呼ばわり餓鬼呼ばわりする奴等がそんな殊勝な事をすると考えられるかね?
さぁ、問題だ。二匹が大喰らいなら計算は矛盾する。しかし、矛盾は起きていない。何故か?
ここで話を変えよう。思い出して欲しい。帰省の道中に『捕まえていた巨大生物が一夜にして消えて跡には小さな生き物が残った事件』が有った事を、未だ迷宮入り状態だという事を覚えているかね?
あの件ではおかしな事が有った。あの巨大熊が生態系を喰らいつくしたのに小熊だけが無事生き残っていたという点だ。
実は、あの熊=今シェリー君が連れている小熊 だ。
考えてもみたまえ。私の目を盗んであのサイズの熊が逃げて小熊を同じ場所に置いておくなんて芸当出来るかね?無理だとも。
ならば話は簡単。熊は消えたのではなく縮んだのだ。
夜の内に巨大熊に何らかの変化又は干渉が有り、縮んだ……正確には元の小熊に戻った。そういう事だ。
何故こんな事を今になって話したか?
解るだろう?足元の蛇と熊はあの子熊と同じ状態になっていたという事だ。縮んでいたという訳だ。
小さければあの子熊同様、馬車に乗せて旅する事だって出来る。食料の節約だって出来る。
371+129+x(x≦1)ならば多少の誤差で済む。
「あの洞窟で作っていた薬物。あれが巨大化させる薬ですか?
正確に言えば、肉体の過剰活性物質とでも言ったところでしょうか?
もしかして、途中ジヘンの村近くに巨大化させた熊を放ちましたか?」
余裕を崩さずに髭面に告げると顔色が真っ青になっていく。
「ッ!どうしてそれを⁉」
図星だ。
村人は健康そのものだった。賊共がマスクを必要とするような場所に一月監禁されていたのにも関わらず、偽物の道を作り、精巧な偽物の村を作り上げ、賊を陥れる細工迄した。
異常ではないだろうか?
何の症状も無いというのは不自然だろう?
では、どうだろうか?『村人達はあの薬品の影響を受けていた』と仮定したら……。
道中の熊の巨大化現象がこの薬物に関わっていたら……。(ジヘンの人間が監禁されていた事も併せて考え、あの件とこの件の原因に同じ賊が関わっていると考えるのは不自然ではあるまい?)
弱っていて良い筈の村人が弱っていないどころか激務に耐える謎。
異常な大きさの生物が少ない食糧で生きていられる様になる謎の現象。
この二つを
『生物の肉体を活性化させ、量によっては巨大化も可能にする薬物』
という共通の原因で考えれば説明が付く。
自白も有った事だし、そういう訳で夏休みにちりばめられていた謎の数々はこの賊達が原因であったと結論付けられた。
さぁ、終わった所で、この賊を大人しくさせて静かな夏休みを始めさせて貰おう。
「さぁ、犯人も割れた事ですし、皆さんにはお縄を差し上げましょう。」
100人を超す武装した男達に私は武器を持たずにゆっくりと歩んでいった。




