最後通牒
石の雨。
最終的に投石機によって飛来した石は誰の頭にも当たる事無く、100個とも地面に減り込み、周囲の地面にヒビを入れた。
「へ……ヘヘヘヘ脅かしやがってよ!」
脅しでは無い。これは残念ながら君達を倒す為の一手だ。
「俺達を舐めてるのか?」
私は舐めている。が、シェリー君は決して君達如きであれど油断はしていない。
「もうネタ切れか?」
これが最後のネタへ繋がる一手だ。
それが証拠にシェリー君はある一点から一歩も動いていない。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ………逃げらんねぇぜ。」
君達がな。
全く。下卑た笑みと手付きが厭らしい。教育に悪くてしょうがない。
「これが最後通牒です。
大人しくこの場から逃げて下さい。
もし………あなた達が今夜、悪夢を見たくないのであれば、素敵な夢を見たいのであれば、直ぐに立ち去って下さい。」
シェリー君が宣言する。
が、そんな事を聞く様な賢い輩がこの場に居る訳がない。
「囲めェ!その後死なネェ程度に痛めつけても構わネェ!」
指揮官が折角の忠告を完全無視。最早勝ちの目が完全に喪われた。
彼らの……………な。
地面に減り込んでいった石が徐々に沈んでいく。
合計100ヵ所のヒビが広がり、繋がり、地面全体がひび割れていく。
「な………何だぁ?」
この地域一帯の性質を知らず、ここが敵の有利な陣地のど真ん中だという事を忘れ、先程まで自分達を近づけもしなかったシェリー君を舐めて投石の意味を考えなかった。
地面のヒビがどんどん広がっていく。
賊共が足を踏み鳴らしてシェリー君を追い詰めに行く。それが更にヒビを大きくしていき…………………………
バキ バキバキバキバキバキバキ
「オイ!」「何だ何だ⁉」「やべーぞ!」「どうすんだ?」「クソが!」
パニックが伝染し、
地面の下の泥沼へとシェリー君以外の全員が沈んでいった。
この一帯は沼地、湿地、泥の地面である。
この虚構の村が有った場所は元々大きな泥沼であった。
そこに乾いた土や砂で蓋をして、仮の地面を作っていた訳だ。
その蓋に、例えば投石でヒビ割れを作り出したらどうなるか?
虚構の村は崩れ、元々あった泥沼が顔を見せる。
シェリー君以外の皆が泥沼へと沈んでいった訳だ。
「倫敦橋落ちた。落ちた。落ちた。ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」
高笑いが響き渡る。
といっても、この嗤いが聞こえるのは私とシェリー君のみ。
泥沼に嵌って動けない賊共には聞こえないし、身動きも取れない。
一人だけ無事なシェリー君はその様子を冷静に見ながら、こう、言った。
「もう、容赦はしませんよ。」




