道中
村の奥、光が差し込んでこない森の中を警戒しながら歩く。
周囲はある程度森が有って歩き辛い湿地。
それは、相手の足止めが出来、自分が隠れられる場所が有るという事である。
それは同時に自分が足止めをされ、相手に待ち伏せをされる可能性を孕んでいる。
というかこの場合、我が物顔で振る舞う向こうが勝手を知っている陣地に足を踏み入れる訳で、数年の間足を踏み入れていない、ブランクの有るシェリー君の方が圧倒的不利だ。
「と、言う訳で、ここからは罠や待ち伏せ、暗号を用いた敵と味方の判別…………一歩間違えればそのまま文字通りのジ・エンド。
どころか村人もまとめてジ・エンドだ。
が、私は原則サポートと変装術のノウハウ伝授に回るから、頼れるのは己だけ。そのつもりでいるように。」
「…………解りました。」
ひそひそ声で囁くように言うシェリー君。
周囲には不気味な程生き物の気配が無い。
所々に人の歩いた痕跡や剣で付けたと思しき傷跡が有るだけで、生物の気配が一切無い。
「変です。」
「何がだね?」
「この辺りはかなりの数の生き物が生息していて、こんなに静かでは無かった筈です。」
「それは、数年前の話だろう?」
「はい、ですが、それにしても生物の気配が全く無いというのは、それはそれでおかしくありませんか?」
「シェリー君、君は何が言いたいのかね?」
「あの熊の時と状況がそっくり。これは偶然で片付けて良い事なのでしょうか?」
あぁ、因みに、あの熊は村に置いて行って貰った。
当然だろう?あの男は熊を飼ってはいなかった。
収穫としてあのサイズの熊を持って帰るのも不自然であるし、何より、相手の拠点に潜入した時に邪魔になる可能性があった。
「そこまでは私は答えられない。不確定な推理を語るのは得策では無いからね。」
そんな事を言ってシェリー君の追及をはぐらかしつつ、私の心は何だか非常に………………ざわめいていた。違うな、怒りか?憎しみ?
何だか人の台詞を盗って我が物顔で使ってしまったような…………ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ……………………
詮索は止めた方が良いらしいな。
そんなこんなをしている内に、目立った襲撃も無く、罠も無く、目的の山へとやって来た。
山というより、『ゴツゴツした岩の塊』というのが近いだろうか?
どうも外部から拠点を隠す気が無いらしく、岩を並べて作られた、道らしきものが有る。
「罠という事は……………無さそうですね。」
「あぁ、このまま、行って良いようだ。」
そもそも、ここまでわざわざ自分達を討伐に来る輩が居ないという確信が有るな。
村に残った老人と子どもだけでは抵抗が出来ないという確証、そして、もう一つ。
今までの情報から統合して、私が出る案件が幾つか有るな。これは。
それよりも先ず、この先に待ち受ける第一の関門をシェリー君が突破出来るかが問題だな。
ここまで罠一つ無い。
それは、ここまで来る輩が居ないという確信が有るにしても不自然だ。
私達の様な間者が居る可能性が有るのに、それを問題にしていないという事は有るまい。
何が言いたいかと言えば、『自分の陣地で、スパイを一網打尽にする関門が有る』という事だ。
多分、ここで今日の連続投稿は終了です。
6話だけで申し訳ありませんでした。
PS:一日の総合PV数は自己ベストを更新しました。有り難う御座います。




