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エレの聴力強化と感覚共有の精霊魔法により、また街中から情報を集める。
ウーベルト家に関すること、攫われた他の人間について。
ウーベルト家の長男であり父親の病死により若くして領主になった男、ゴルベド・ヴァニ・ウーベルト。
今回の誘拐の黒幕と見て間違いなさそうだ。
我が儘で残忍、ものぐさで身勝手、傲慢でサディスト。その上、頭を下げるべき相手にはキッチリと媚びる。
拾える情報は悪口の類が多かった。
流れ者ばかりを狙っているせいか、大して問題にはなっていないようだった。
王都衛兵団のトップと、先代の領主からの繋がりがあるらしい。
そのコネで揉み消してもらっている、という面もあるのだろうか。
誘拐に関することも噂話の域を出ない。
宿屋のジジイから話を聞いていなければ、たまたま耳にしてもただの法螺話だと切り捨てていただろう。
しかし宿屋で聞いた話を裏付けてくれる情報はあったが、あまりそれ以上のことは耳に入ってこない。
まぁ、そんなものか。
あまり時間に猶予もないし、そろそろ切り上げることにしようか……と考えていた矢先、気になる声が頭に入ってくる。
声は、城の方からだ。
エレに目で合図をし、意識を傾けてもらう。
『レイア率いる彼らの……がなく、また煙が上がって……を、見た者が……との……。レッドタワーに、何かあった……ではないかと』
どうやらレッドタワーの件について、話している者がいるらしい。
何か異常があったとはわかっているようだが、それ以上のことはまだ掴めていないようだ。
時間の問題だろうが。
『グリ……平原での訓練でも、見たことのない大型魔獣に襲われた。引率のA級魔術師が足止めし、どうにか異世界人を散り散りに逃がすことに成功し……のの、クジョウイン、ユウジ……の二名がまだ見つかっていない。恐らくは大型魔獣と誘拐、どちらも例の教団の仕業だったのでは……かと』
『まだ伏せて誤魔化して……るが、このま……では、異世界人との間に亀裂を作ることにな……だろう。早急に、何か手を……』
クジョウイン……というのは、紅上院妃のことだろう。
プライドが高く嫉妬心が強い、典型的な女王様体質である。
そっちはわかるが、ユウジなど……そんな名前のクラスメイトはいない。
まさか、夕島? 優のことか?
紅上院と優の二人が行方不明になった?
そこだけ聞けばウーベルト家と関係があるのではないかと考えてしまうが、大型魔獣と例の教団、というのが引っ掛かる。
教団というのは前にも耳にしたワードだ。
精霊魔法を解いてもらい、得た情報についてトゥルムから意見をもらう。
俺はこの世界に疎すぎる。
「トゥルム、アイルレッダが敵視している教団って、どこのことを示すんだ?」
『……妾も長らくこっちの世界から離れておったから齟齬があるかもしれんが、教団、理想郷のことであろうな』
「ユートピア?」
確か禁魔導書の最後のページの魔法も、『理想郷』だったはずだ。
内容に関するところがほとんど読めないため、どういう効果があるのかはまったくわからないが。
『手放してさえいなければ、妾の分けられた魔力の一部が宿る禁忌の杖を所持しているはずの団体でもある』
俺がトゥルムとの約束で取り返さなければならない魔法具、ということか。
もっとも今の俺の状態ではクラスメイトへの復讐を終えた頃には廃人になっていそうなので、その件についてはエレに継いでもらうことになりそうだが。
『心配するでない。奴らは、アイルレッダの平和ボケした連中よりずっと優秀であるからな。貴様が各地に残した禁魔術の痕跡を追い回し、血眼になって妾を捜していることであろう。カタリがどれだけ避けようと、いずれ衝突することになる』
「…………」
向こうも魔導書を捜しているのか。
トゥルムからしてみれば力が一か所に集まればいいのだから、教団に持っていかれても問題はないのではなかろうか。
「トゥルムはどう思う? 消えた二人のクラスメイトは、教団に連れて行かれたと思うか?」
『可能性がないわけではない。アイルレッダが貴様らを戦力として抱え込もうとしていたように、教団もまた異世界人の力を欲しがっておる。が、奴らが動いたにしては手緩すぎるな。
案外、貴様の幼馴染とやらも、ウーベルト家に捕まっておるかもしれんぞ。だとすれば、一石二鳥であるな』
街で地図を買い、ウーベルト家の治めているカスタネア村までのルートを調べる。
村の最北部に、ウーベルト家の本邸があるはずだ。
王都から、思ったよりも距離がある。
馬車を急がせてもらえば、まだ充分に間に合うかもしれない。
すぐさま準備をし、馬車を雇う。
メアリーと紅上院、それから優がいるはずの、カスタネア村へと出発する。




