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084 籠を背負って出掛けよう


 前夜に出掛けたレストラン『リゲル』の味は全員が納得してくれた。

 カテリナさんも、美味しそうにムール貝をフォークで食べていたな。

 最速の高速艇で食材を運んでくるらしいから、冷凍ものではない美味しさがあるという事なんだろう。

 他のレストランも探索しようと言う事になり、フレイヤが張り切っていた。


 その翌日。俺達は探索に出掛ける。

 朝早く起きた俺達はジャグジーに入り、さっぱりとしたところでそれぞれの準備を始めた。

 俺は、とりあえずいつもの服装に着替えてソファーに腰を下ろす。

 タバコに火を点けて、対岸の桟橋に停泊しているラウンドクルーザーを眺める。

 駆逐艦の改造版だな。かなりの旧型だけど、この付近で採掘を行なうのだろうか?


「あれを見てたの? 12騎士団の1つよ。タイラム騎士団の先行偵察艦らしいわ」


 俺の傍に座ったフレイヤが、俺の視線を追って教えてくれた。

 さすがは12騎士団だ。たぶんガリナムと同じような感じなのかな。連装砲塔を4基備えているから色々と使えそうだ。ガリナム同様に戦機は載せていないのだろう。


「タイラム騎士団の話をしてたの? 中継点の事務所を介してヴィオラ騎士団に接触を求めてきたわ。出航を控えてるから断わったけど、どうやらリオに会いたがってたようね」

「俺に?」

 コーヒーカップを乗せたトレイを持ってきたカテリナさんが俺達の会話に加わる。


「そう、貴方に。貴方は一介の騎士と言うスタンスを取ってるけど、一応この領地の公爵なのよ。騎士団長や騎士身分であれば当主との謁見は可能だわ」

「だけど、あの駆逐艦はどう見ても戦機を積んでるとは思えないぞ?」

「西の桟橋にもう1隻入港してるわ。グラナス級よ重巡洋艦より大きいわよ。戦機は6機以上は積んでるでしょうね」


 2隻で入港してたのか……。

「出航ならば文句も出ないだろう。で、どんな騎士団なんだ?」

「それなりの騎士団よ。悪い噂も聞かないけど、良い噂も聞かないわ」

 

 普通って事なのかな?

 まあ、サーペントみたいな奴等じゃなければ十分だ。

 帰ってくる頃を狙ってまた入港してくるかもしれないけど、俺達からは特に用件は無いから向うから接触して来るのを待ってれば良いか。


 全員が揃ったところで朝食になる。此処のところ、野菜や果物のサンドイッチが多いんだよな……。

 ソファーでコーヒーを飲み終えると、ドミニク達が部屋を出て行く。

 大型艦だから出るまでは緊張するんだろうな。それでも、少しトンネル壁面を削ったから、前よりは楽になったんじゃないかな。


 ヴィオラ、ベラドンナ、カンザスの順番でトンネルを潜っていく。

 トンネルを出たところで、エミーとフレイヤが部屋を出て行った。

 残ったのは騎士とカテリナさんの4人だ。本来はエミーも騎士なんだけど、フレイヤが自分の補助をやらせているみたいだ。

 

「今度はどこに向かうのじゃろうな」

「この前は半日南に下がって、西に向かいました」

「という事は、1日は南に向かわないだろうな。全艦が揃ってるんだから、直ぐに西に向かうんじゃないか」

 

 一応、前回と同じコースは取らない筈だ。ラウンドクルーザーの速度は遅いからね。

 スクリーンに今までの探索コースを表示してワイワイ騒いでいると、カンザスの進路が変わる。

 尾根を出てそれ程進んでいない。どうやら北寄りのコースを選んだようだ。


「一応、フレイヤとドミニクの許可は取ってあるわ。見付けたらリオ君お願いね」

「例の話ですね。良いですよ。でもどうやって採取するんですか?」

「特性の斧とカゴを作ったわ。沢山集めてね」


 何か山に薪を取りに行く感じだな。

 

「おもしろそうじゃな。我もついていくぞ」

「ああ良いよ。手伝って貰えると嬉しいな」


 俺の返事にローザが笑顔を見せる。嬉しそうだけど、巨獣の牙を拾ってくるだけなんだけどね。

 昼食時になってフレイアとレイドラが部屋に帰ってきた。

 今のところは有意な鉱石反応が無いらしい。少し残念そうな顔をしているけど、食欲はあるみたいだ。

 蜂蜜たっぷりのワッフル3枚を平らげている。


「南の方に他の騎士団の船が見えたわ。停止していたから採掘をしていたみたいね」

「その内、見付かるじゃろう。この前より少し南に下がっただけじゃ。今度の探索もたっぷり鉱石が取れるはずじゃ」


 フレイヤの言葉にローザがそう言って慰めてる。

 まあ、そもそも山師だし当たり外れの世界だからな。時速30kmで西に進んでいるから、何時鉱石が発見されてもおかしくは無いんだが……。


 そんな2人が食事を終えて部屋を出て行くと、今度はエミーとドミニクが食事を取りに帰ってきた。

 ソファーから片手を上げて労をねぎらい、タバコを咥えて遥か西を眺める。

 まだ、出航して数時間にも満たないからな。


 食事を終えた2人がソファーでコーヒーを飲んでいる。

「30km圏内に4隻のラウンドクルーザーがいるわ。これからは争奪戦になるわよ」

「中継点が出来たからね。中継点を基点に西に3千km以上は進めるんじゃないかな」

 

 騎士団のラウンドクルーザーは時速30km前後だ。

 1日に700km進めるとすれば、5日も進めばそれ位になる。1回の航行が20日前後だとすれば、かなり広範囲に騎士団が活動することになる。

 当然中継点だけで捌ける鉱石量ではない。それがバージ専用の中継点が必要な理由の1つではある。

 もう1つは、戦機を持たないような小さな騎士団が、比較的安全に鉱石採取を行なえるようにだ。

 赤道から北緯30度付近までならそれ程巨獣が現れる事もない。とはいえ、海賊の活動区域ではあるんだが。


「ところで、ホントに採取するの?」

「巨獣の牙だろ。無ければ新型獣機が作れないような感じだからね。『ドロシーに伝えた』ってカテリナさんが言っていたから見付かれば教えてくれる筈だ。アリスとデイジーなら採取に出掛けても直ぐに追い付けるし……」


「何時もより低空を円盤機が低空を飛んでるのはその為なのね。本来任務を忘れないと良いんだけれど」

 

 それは無いだろう。忘れたとしても周囲100km以上を周回しているんだから直下で見つけたとしても十分な余裕がある。

 フレイヤ達が持ち場に戻ると、俺達3人はまた、ソファーに座って前方を眺める。

 退屈になってきたぞ。


『巨獣の骨を発見! イグナッソスです』

 

 ドロシーの声にローザがソファーから飛び跳ねるように立ち上がった。

 パタパタとエミーの部屋に駆けて行く。

 俺も急いで自室に戻り、戦闘服に着替えるとその上にTシャツとスラックス来てリビングに戻った。

 既に戦闘服姿でローザが待っていた。


 さて、またこの装置で出発する事になるんだな。そんな思いでミニバーの反対側の壁にボタンを押した。

 現れたカプセルに滑り込むとプシューっと言う音と共にカプセルが滑り出す。

 直ぐにローザが乗り込んでくる筈だ。


 カプセルの停止と同時にカプセルが回転してチューブの開口部と重なると、下に敷いてあるマットに落とされた。

 体を回転させるようにしてマットから抜け出すと、ボトンっとローザが落ちてきた。


「これはおもしろいのう。他のラウンドクルーザーにも欲しいものじゃ」

「でも、帰りは歩きだぞ」


 そんな俺の言葉にローザの笑顔が消える。結構距離があるからな。

 アリスに乗り込んで昇降装置の台に立つと、ゆっくりと台が上昇していく。

 装甲甲板の蓋が解放されて青空が見える。


『ドロシー、目標の座標を!』

『今伝送します!』


 そんな会話を聞いていると、デイジーが金属製の背負い籠を持って現れた。

 籠の中には斧が入っているぞ。


「兄様、忘れ物じゃ」

 そう言って俺に籠を渡してくれる。

 アリスに背負わせると、カンザスから飛び降りる。

 一気に北を目指して滑走していくと、後ろからデイジーが滑空してきた。


「離れておるのか?」

「北北東に40kmらしい。少し速度を上げるが大丈夫か?」

「任せておくのじゃ、デイジーの速度はこの2倍は出るぞ」


 時速150kmは出るってカテリナさんが言ってたな。

 アリスの速度を増して滑空モードにする。20分もしないで白い骨が荒地に突き出している場所を見つけた。


 早速、周囲を偵察して安全を確認する。

 頭蓋骨付近に着地すると、籠を下ろして斧を取り出した。

 これで叩けば取れるんだろうか?とりあえず大きく振りかざして力一杯叩いてみた。

 バリン!っという音と共に頭蓋骨が砕け散る。

 意外と楽に砕けたな?

 デイジーが砕けた骨を退けて牙をせっせと籠に入れている。

 俺は次の頭蓋骨を砕くと、その中から牙を拾い始めた。

 

「あまり無いのう」

「2頭だしね。チラノ辺りなら牙も大きいんだろうけど、生憎とイグナッソスだ。それでも俺の足ぐらいはあるんだぞ」


 そんな話をしながら籠を担いでカンザスに戻る。

 籠を持ったままカーゴ区域に下りると後はベレッドじいさんに頼んで俺達は自室に戻った。

 戻ると同時にカンザスが回頭を始める。どうやら、鉱石を見つけたようだな。


「やれやれじゃな。少し遅い気がするが最初の鉱石を見つけたようじゃ」

 ローザがそんな事を言いながら私服に着替える為、エミーの部屋に入っていった。

 俺も、戦闘服を脱いでソファーに座る。。

 ローザが戻ってきたところで、俺達にライムさんがコーヒーを運んで来た。

 そういえば、リンダがいないぞ?


「リンダさんはジャグジーにゃ。プラネタリウムが付いてるって言ったら飛んでいったにゃ」

「まあ、珍しいギミックだからね。ライムさんも入ったの?」

 「入ってみたにゃ。大きいから手足を伸ばせるにゃ」


 それなりに気に入っているようだ。あまり、娯楽が無いからね。

 やはり大型プールは早めに作ったほうが良いのかも知れない。

 それ以外の娯楽も考えないといけないのだろうが、生憎と良いアイデアが無い。

 そんな所にリンダがジャグジーから出て来た。

 ライムさんに冷たいソーダを頼んでる。直ぐにローザが追加を出してる。


「おもしろい仕掛けですね。リラックス出来ます」

 そう言ってソファーに腰を下ろす。

「まあ、カテリナ博士の考えじゃからな。騎士の疲れを取る事が大事と思ってのことじゃろう」


 運ばれてきたソーダを美味しそうに飲んでいる。

 ローザのカテリナさん評価は全てを良い方向に捉えてるな。タバコを咥えながらそんな事を考えた。


 3時間ほどラウンドクルーザーを停めて鉱石を採掘して、再び西に向かう。

 それからは数時間おきに鉱石が見付かった。やはり、西は鉱石がゴロゴロって感じだな。

 出航して4日もすると300tバージ6台に鉱石が満載になる。これで中継点に戻れる。

 かつては1回の航行に15日程掛けていたのが、この所ほぼ半分の日数で済んでいる。

 たぶん他の騎士団の似たような感じに違いない。

 カテリナさんも今回の航行で2体分の重ガルナマル鋼を手に入れてるから機嫌は上々だ。

 数回出航すれば10体分にはなるんじゃないか?

 


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