065 式典を無事に終えて
関係者一同が西の桟橋に並ぶ。
1歩前に、俺とエミーそしてローザが並んだ。
ドロメ騎士団のラウンドシップは小型のダモス級輸送船を改造したものだ。
装甲甲板に、75mm砲塔が前に3つ後ろに1つ付いている。
小規模騎士団だから戦機は持っていないだろう。獣機を数機使って落穂拾い的にマンガン団塊を見付けてるに違いない。。
艦橋横の扉が開き、ローディングブリッジが桟橋とドロメの扉を繋ぐと、5人の男女が姿を現した。
俺達が拍手をする中、嬉しそうに手を上げて応えてる。ノリは良さそうだな。
俺から数歩離れて彼らが並ぶ。
ドロメの騎士団員はドロメの装甲甲板に一列に何時の間にか並んでいた。
「ようこそ、我が領地へ。ヴィオラ騎士団と中継点関係者はドロメ騎士団を歓迎します」
「最初の利用者となれて光栄です。そして、危ういところをありがとう」
2人の男が1歩前に出ると、年かさの男が俺に綺麗な答礼をする。
それを合図にエミーとローザが、花束を持って歩み寄り2人に花束を贈呈した。
相手の男達は笑顔で受取ると、握手をしているぞ。
それを見て、周囲で成り行きを見ていた者達が一斉に拍手をする。桟橋の左手奥にはラドネス騎士団と見える連中が集まっていた。
簡単なセレモニーが終ると、ドロメ騎士団長達は入港手続きに居住区へと向かう。他の団員は早速商会の事務所へ向かって歩いて行く。
ちょっとした息抜きだな。
そんなセレモニーを終えた俺達は、モノレールで東の桟橋に停泊しているヴィオラへと向かった。
礼服から平服に着替えたところでリビングに集まる。ようやく、拠点として機能し始めた事を誇らしく思うのか、皆の顔が微笑んでいる。
「少なくとも、10日は私達は出られないと思うわ。それと、母から聞いたんだけど、フラグシップが2ヵ月後に完成するわよ。このヴィオラには1年も乗船してないけど、もうすぐお別れになるわ」
「でも、隣を走ることになるんでしょう。かなり火器コントロールプログラムをいじったから愛着もあるのよね」
確かに、この船では色々あったからな。
だが、フラグシップを早く見たい気はするな。
問題は搭乗員をどう変えるかだ。大型にはなるが搭乗員は少ないらしい。
獣機も搭載すると言っていたが、フラグシップに積むよりはこのままヴィオラに積んでいた方が良いだろう。
「早目に人員配置をクリスと相談した方が良いぞ。その時になって慌てるよりはいい」
「明日にでも、そうするわ。まだ決めなきゃならない事も沢山あるし……」
「そう言えば、シエラ母さんとソフィーが騎士団で働きたがってたんだけど」
「確か農園を経営してるのよね。王都の事務所を担当して貰えると嬉しいわ。リバリー商会がビルの一角を貸与すると言ってくれてるの。もちろん家賃は払うけど、騎士団領への入港手続きや来訪申請やらで、結構事務手続きがありそうなのよ。旧騎士団の人達に頼んだけれど、人が足りないって文句を言われてるわ」
アレクはどう思うだろう? 後で教えてやろう。
ソフィーの友人を迎えるのも良いだろう。意外と王都での暮らしは楽しいかも知れないぞ。
そんな話をしていると、もう朝の6時だ。早起きする連中は散歩でも始める時刻だが俺達はこれからが睡眠を取ることになる。
エミーとフレイヤを連れてベッドに向かうのを恨めしそうにドミニク達が見ている。
それでも諦めたようにレイドラと溜息を付いている光景がドアを閉める時に見て取れた。
睡眠不足だから、ベッドに倒れこむようにして横になった。
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次の日。
皆で昼食を終えると、ドミニク達は騎士団長との会議に出掛け、フレイヤはエミーと共にローザやサンドラ達とボードゲームをするんだと言って待機所に出掛けて行った。
残ったのは俺だけだから、部屋でのんびり過ごすことにした。
コーヒーを飲んで一服すると、少し早いがお昼寝としよう。
数時間も寝てないんじゃないかな。それを考えると皆元気だなと感心してしまう。
ぐっすりと寝込んだ俺だったが、ふと目を覚ますと隣にカテリナさんが寝ていた。
「あら、起きちゃった?」
小さく頷いてベッドを抜け出し衣服を整えた。俺を追い掛けるようにカテリナさんもベッドから体を起こし、何事も無かったように衣服を整えている。
ソファーに座ったカテリナさんにコーヒーカップを渡して、俺もマグカップのコーヒーを飲む。
そんな俺をみて微笑みながら、カテリナさんはタバコに火を点けた。
「明日、ヒルダ達がやってくるわ。吃驚すると思うわよ」
「まだ話していないんですか?」
「もちろんよ。エミーにも長距離通信の代金は高額になるって言ってあるしね」
遊んでるな。
そんなに高くはないと思うけどね。衛星回線だから、1秒いくらって感じだけど、長く話さなければ1回100Lを超える事は無いんじゃないかな。
「エミーにローザが、短剣を強請れって言ってましたよ」
「そうなると、ローザはあの護身用拳銃を強請るんでしょうね」
そういえば、ローザのガンベルトにはゴツイホルスターが付いていたな。
俺がプレゼントしてやろうかな。幸い、貰い物の宝石が沢山あることだしね。
と言うか、全員分を作ってやるか。ドミニク、レイドラ、フレイヤにローザ、それとクリスか……。全部で5丁なら少しは値引き交渉が出来るだろうし。
騎士でなくとも護身用ならそれ程奇異な目で見られることは無いだろう。
「何を考えたの?」
「皆に護身用の拳銃をプレゼントしようかなと……」
「そうね。だったら、ベルッドに頼んでみたら? 彼の拳銃作りはかなり有名よ。そして、士官用となれば、ベルッドなら彼の師匠に頼むでしょうね。たぶん3つの王国で一番のカスタム拳銃作りよ。私の持つ拳銃もベルッドの師匠が作った物よ」
そういえばカテリナさんは銃を携行していないんだよね。
自分達のラボに置いてあるんだろうか?
「そうそう、これをアリスに渡してくれない。ラボの連中と頑張ってみたんだけれど上手く行かないの。アリスなら上手くプログラム化出来るかもしれないから」
クリスタルキューブをテーブルの上に置かれた。
記録媒体だな。これに作業内容とカテリナさん達が考えたプログラムの断片が入っているのだろう。
「コーヒーをご馳走様」と言ってカテリナさんは帰っていった。
忘れない内に、アリスにキューブを託す。後はアリスに任せておこう。たぶん知恵の輪みたいなプログラムなんだろうな。
誰も帰らないうちに、銃の製作をベルッドじいさんに頼みに出掛けた。
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ベルッドじいさんの所から戻る途中で待機所に寄ってみる。
いつもの場所にはボードゲームに興じるエミー達と、そんな彼女を達を見ながらビールを飲んでいるアレクは退屈そうだ。
俺がソファーに座ると、アレクが缶ビールを手渡してくれた。
「全く、サンドラ達は良く飽きないものだ」
片方は夢中になって遊んでるのに、こっちはビールをちびちび飲んでるだけではな。不満も言いたくなるだろう。
「休みですから、のんびりするのも仕方ないですよ」
俺に苦笑いを見せると、アレクがタバコを取り出す。
「フレイヤがシレインさんとソフィーが騎士団で働きたがっていたと言ってましたよ。ドミニクがそれなら王都の事務所を手伝って欲しいと頼んでました」
「お前が気に入ったらしいが、フレイヤがいるからな。それでも同じ騎士団で働きたいと俺にも言ってきた。王都なら安全だ。俺も賛成するよ」
アレクの事だ。王都に帰る度に様子を見に行くんじゃないか? 意外と優しいところがあるからな。それに心配症でもある。
巨獣に挑む時でも、仲間に無理をさせないよう、いつも気を配っているようだ。そういう意味で、アレクは筆頭騎士なんだろう。酒を半分でも控えれば筆頭騎士の模範になれる人物なんだけどねぇ……。
「いったい何時まで酒を飲むつもりじゃ? そろそろ食堂に出掛けるぞ」
「ほんと、子供なんだから」
お腹を空かせたフレイヤ達が文句を言い始めた。
自分達をさて置いて良い気なものだ。
食堂は、あまり混んでいない。どうやら、商会の建屋の中にあるレストランに流れたようだな。
ちょっとした変化が嬉しいんだろう。でも値段が違うから、今後はたまに出掛けるだけになるだろう。
その辺は、食堂の責任者も心得ている筈だ。
今日は野菜たっぷりの焼肉だ。
ワインを飲みながら皆で西の賑わいを眺める。
「桟橋にだいぶ人が出ているね。ラウンドクルーザーが4隻も入ってるんですもの。その内、2つは中規模騎士団よ。そうなると、上陸している人だって500人以上はいるわ」
「警備の人達も大変ね」
桟橋から10mは立ち入り禁止だから、落ちる人はいないと思うけどね。
それでも、酒が入ると喧嘩位はあるんだろうな。
「小規模騎士団は今日中には出発するそうよ。24時間以内の休憩なら1万Lで済むからね。2日で2万、3日で4万って2倍に増えるらしいわ」
「24時間なら、水と食料の積み込みは出来るか……。王都なら最初から10万だからな。意外と良心的な入港料かも知れんぞ」
「問題は、大規模騎士団と12騎士団ね。明日にはレブナン騎士団が来るわ。戦機5機を持つ騎士団よ。そして5日後に問題の騎士団サーペントがやってくるらしいわ」
「戦鬼を2機持ってる騎士団ね。2隻で行動していると聞いたけど……」
戦鬼2機は凄いな。
そうなると、彼らの自尊心を保つ為にもムサシとアリスは確認しておきたいところだろう。
見せる位は構わないが、要求はそれぐらいじゃ済まないんだろうな。
「どんな要求をされるかと思うとね」
「だが、地位はリオの方が上だ。まさか公爵閣下に向かって命令するとは思えないが?」
そういう事も考えて、俺を公爵にしたのか?
確かに、他国に乗り込んでその国の長に向かって命令は無いだろう。ドミニクが10日は出られないと言ったのはそういう事かも知れないな。




