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【49】私が猫ならボサ尻尾になってたね






 リュカオンにガイドをしてもらい、こっそりとユベール家が見えそうな場所へと向かった。

 どうやらまだ王城には来ていないらしいので、三階の窓から目だけをひょっこりと覗かせて正面玄関前を見張る。

 私の周りには人はいない。ユベール家とお関りになりたい人は一階に行ってるし、そうでない人は全く見えない場所に隠れるように移動しているからだ。


 ユベール一家が来るとの情報が行き渡ると、王城内の人の行動は二分した。

 積極的にユベールの目に留まろうとする人達と、できるだけユベール一家が通りそうな場所から遠ざかる人達に見事に分かれたのだ。皇帝派かユベール派か分かりやすいね。


 暫く窓から外を見ていると、一際豪華な馬車が正面玄関から少し離れた場所に止まる。装飾が明らかに豪華すぎて一発であれがユベール家の馬車だって分かった。馬も毛並みがツヤツヤしててとっても立派な馬だし、他の貴族の馬車とは格が違うね。

 御者が恭しく馬車の扉を開けると、中から青年が出てきた。


「にゃっ!?」


 出てきた青年を見た瞬間、私は間抜けな声が出るとともに全身の毛が逆立つのを感じた。あまりにも不気味な圧を感じたからだ。

 私が猫だったら尻尾が一回りどころか三回りくらいボサっと太くなっていたことだろう。

 最初に出てきたのは赤い髪をした青年だった。多分、あれが嫡男のダリルだろう。顔は整っているけどフィズや神官のお兄さんに比べるとその差は歴然だ。まああの二人が規格外過ぎるんだけどね。

 そして、ダリルのエスコートでドレスを着た女性が出てくる。自分の髪と同じ、鮮烈な緋色のドレスを着た女性―――ヴィラ・ユベールが。


 ヴィラが出てきた瞬間、ゾワッとして全身に鳥肌が立つのが分かった。それと同時に背中に冷や汗も伝う。

 なんでこんなに不気味なんだろう。一見ただの麗しい兄妹なのに、なぜか不気味さを覚えてしまう。結構距離はある筈なのに、ダイレクトに圧を感じる。

 ユベールを出迎えている人達を見てみると、私と同じように嫌な気配を感じてそうな人はいなかった。

 みんなはこの不気味な気配を感じないのかな。それとも私がユベールを敵認定してるからそう感じるだけ?


 もう一度見てみてもユベールを出迎えている人達は普通に笑顔だ。

 え~、私なんか鳥肌が立ちすぎてもうすぐ羽が生えてきそうなくらいなのに……。自分を抱きしめるようにして腕をさすりながら私はそんなことを思う。

 その後、ユベール家当主と思わしき壮年の男性が出て来たけど、やっぱり不気味な感じがするのは拭えなかった。ただ、当主よりはヴィラの方が圧が強かった気がする。不思議だ。


 すると、当主を先頭にして三人は王城の方に歩き始めた。これで王城に来たユベール家の面子は全てのようだ。


 赤い髪をハーフアップの形に複雑に編み込んでいるヴィラを見て私は思う。


『にしても、夜会でもないのに随分派手なドレス着てるねぇ』


 ヴィラが着ているドレスは胸元ががっつり開いているデザインの、明らかに夜会用としか思えないものだった。


『王城に来る時はいつもあんなドレス着てるの?』

『……そうらしい』


 ややあって、リュカオンから返答があった。セレスに聞いてくれたんだろう。


『ふ~ん、珍しいお嬢様だね』


 なんとなく寒気を感じるので、腕をさすりながらリュカオンに返事をする。

 真昼間の王城に来るのに夜会用のドレスを着てくるなんて珍しいお嬢様だ。他にそんな人はいないからかなり目立つのに。

 美しいものが好きらしいし、いつでも一番綺麗な格好でいたいとかそういうことなのかな。それとも、何か他の理由があるからあえて目立つ格好を選んでたりして……考えすぎか。

 ついついシャノンちゃんの迷探偵な一面がひょっこり顔を出しちゃったみたいだ。




 ユベール一家が王城に入って見えなくなると、私の鳥肌はやっと治まった。


『ふぅ、鳥肌が立ちすぎて鳥になっちゃうかと思ったよ』

『正に杞憂だな』


 冷静だねリュカオン。


 さて、ユベール家の顔も拝んだことだし、私は元の部屋に戻ろうかな。

 侍女用の書類仕事部屋に向かって歩きながらリュカオンに念話を飛ばす。


『―――リュカオン、敵は私達が思ってるより強大かもしれないね』

『……なぜそう思った?』

『ん~、なんとなく。なんか、他の人には感じない不気味さとか圧があるんだよね。あんな人達、今まで会ったことないよ』


 正直ちょっとびびっちゃったのは否めない。


『不気味さか、確かに我もこの前感じたな』

『そういえば言ってたね』

『だが何、案ずることはない。シャノンには我がついているであろう。最強の矛であり盾である我が』


 念話だから見えないけど、リュカオンがむんと胸を張っているのが声音から伝わってくる。


『ふふふ、そうだね、私には世界一頼もしい狼さんがついてたや。じゃあ夜中のお手洗いも怖くなっちゃったら一緒に来てくれる?』

『任せておけ』

『冗談だよ』


 そこはさすがにね。シャノンちゃんももう十四歳ですし、一人でお手洗いくらい行けます。

 だけど、リュカオンのおかげで少し尻込みしていた気持ちが奮い立った。


 ―――最強の相棒(リュカオン)が一緒なら、私はあのおっかない人達にも立ち向かえちゃうよ。















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― 新着の感想 ―
14歳で自分を「シャノンちゃん」かー…。 14歳っていわゆる中学生…もう少し幼い8・9歳位のイメージで読んでた(笑)
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