収納魔法は最強です
「は。大した威力なのじゃ」
膝をついて回復に専念するアカネが、荘厳な光景を前に声を漏らしていた。
大破片は見るも無残に崩壊し、すでに原型をとどめていない。
エマによって複製された【ゾハル】は、粉砕の限りを尽くされ、一つ一つが小石程度までに散り散りとなっていた。
【ゾハル】が完全に破壊されたことで、融合していたエマが分離し、破片が舞う虚空に姿を現した。
膝と両手をつき、立ちあがれないようだ。
「やって、くれましたね――」
エマにも相当なダメージが伝わっているのか。こうなれば、ほとんど勝ちみたいなもんだ。
といっても、その代償は大きい。
セレンがふらりと倒れそうになり、ルーチェが咄嗟に受け止めた。
「王女様、大丈夫?」
「へいき」
相変わらずの無表情ではあるが、セレンの疲弊と消耗が激しいのは明白だ。
支えているルーチェの表情も苦しげだ。あれだけの容量の魔力を出し入れするには、アイテムボックスのコントロールにかなりの集中力を要するはず。精神的にはすでに限界を迎えているに違いない。
アイテムボックスにも罅が入っている。相当な負担がかかったようだ。残念だが、あれはもう使えない。
今や、ここにいる誰もが満身創痍だった。
俺の治療も遅々として進まない。サラ、ウィッキー、アデライト先生の魔力も底をつきかけている。
アナベルは瀕死のアイリスに、懸命に医療魔法をかけ続けていた。
現時点で無事なのは、異次元の戦いに呆然としているイキールと、虎視眈々と勝機を探す原初の女神。そして戦いの趨勢をじっと見守るオルタンシア。その三人だけだった。
「今しかありません」
原初の女神が断言する。その視線はオルタンシアに向けられていた。
「あなたのスキルで、あの破片をすべて取り込んでください」
オルタンシアは信じられないような顔になった。そりゃそうだ。【ゾハル】の破片はまさに無数にも等しい。
「あれを、全部……ですか?」
「そうです。『インベントリ』なら可能です」
「そんな……自分のスキルなんて、そんな大層なものじゃ……」
「自覚がないかもしれませんが、『インベントリ』は超絶神スキルですよ。使いようによっては世界を支配できるほどです。私が言うのですから、間違いありません」
たしかに。
スキルの根源はエスト。エストはマーテリアから生まれ、そしてマーテリアとは原初の女神の分身だ。そう考えれば、説得力は十分すぎるほどある。
それでもオルタンシアは、どうにも自信がないようだった。
俺は力を振り絞り、声を張る。
「オルたそ!」
「は、はいっ……!」
「お前しかいない。皆が繋いだチャンスを、勝利に繋げてくれ。俺達の世界を、取り戻すんだ」
オルタンシアは自らの使命の重さに狼狽した様子だった。
彼女の視線は、懸命にアイリスを治療する娘に向けられる。その瞬間、オルタンシアの覚悟は決まっていた。
「種馬さまがそう仰るなら、やります……! やってみせます……! 自分は……アナちゃんの、お母さんですから……!」
そうだ。その意気だ。
俺はオルタンシアの決意に笑顔で応え、力強く頷いた。
「サポートします」
原初の女神がオルタンシアの手を取り、共に飛翔する。
「おねがいします……!」
オルタンシアは『インベントリ』を展開し、原初の女神と共に破片が舞う中に飛び込んでいった。
両手に展開したゲートが、無数に舞う黄金の破片を吸い込んでいく。集めた塵を吸引する掃除機のような勢い。独特の気持ちよさがあった。
「これで、いいんですか?」
「上出来です。不滅の【ゾハル】とて、機能停止したまま保存されたとすれば、それは死と同義でしょう」
ちょうどマシなんとか五世をアイテムボックスを通して異次元に封印したのと同じだ。
攻略法がわかっているなら勝ち目もある。
そういう意味では、マシなんとか五世の存在も無駄じゃなかった。あいつのせいで色々大変だったが、最終的な勝利の礎になってるんだからな。
「まだです……」
驚いたことに、エマがゆっくりと立ち上がろうとしてた。
「まだ……終わってません!」
ダメージの具合は俺達と変わらないというのに、その戦意はひとつも衰えていない。信じられないほどの執念だ。
「勝つのはあたし! 勝ってあの子を救うんです!」
凄まじい気迫。
さしもの俺も気圧される。
エマはオルタンシアを止めるべく、魔力を纏って浮き上がっていた。
まずい。
と感じたのも束の間。
真正面からエマを止めたのは、輝かしい光輪を背負ったイキールその人であった。




