切り札
(公子さま。あなたは強い。人でありながら、人に許された領域をゆうに超えています。けれど、あなたのお仲間達は違うでしょう?)
「なに?」
(あなたは仲間を頼ると言いましたが、あなたのような人が頼るには、その人達は小さすぎるんです)
大破片が閃く。
放たれた光線は疲弊したサラやウィッキー、アデライト先生の方へ向けられていた。
声を出す暇もない。
俺は超光速で動き、彼女達の盾となるしかなかった。
(だから、こういうことになる)
防御する暇はなかった。ただ身体で受け止めただけ。
俺の左腕は肩から消し飛ばされ、右腕は前腕から剣ごと吹き飛ばされた。
胴体は破壊のエネルギーを受け止めたことでボロボロになり、両足も焼け爛れて原型をとどめていない。
我ながら、立っているのが不思議なくらいだった。
「ご主人様……!」
「急いで医療魔法を!」
「はいっす!」
三人が尽きかけた魔力で治癒を施してくれるが、裏世界でどれだけ効果があるものだろうか。
(お気の毒ですが、そういうことなんです)
「……どういう、ことだ」
(有り体に言って、足手まといでしょう?)
「な、んだと……!」
(力の差がありすぎる。あなたと、他の人とでは)
「そんなことはない……! 俺が持っていない者を、皆は持ってる。みんな、自分にしかできないことがあるだろうが……っ」
(得手不得手の話はしていません。仮にお仲間達と戦ったとして、負ける気がしますか?)
「それは――」
(しないでしょう。あなたは強すぎるんです。圧倒的に強大な個に対して、有象無象は付属品でしかない)
エマの口からそんな言葉を聞くことになろうとはな。
あの気弱で心優しい少女はどこに行ったんだ。
あるいは最初から、そんな人物は存在しなかったのか。
「エマ……お前は、どうしてそこまで」
(必要と不要の選別は大切なことです。価値ある人生を歩むために。価値ある世界を創るために。人も同じ。あなたの隣に立つべき人は、ただ一人)
俺はその言葉を否定しようとしたが、それに先んじる声があった。
「そんなことはない」
セレンの淡々とした物言い。
「今から証明する」
その響きには、恐れも、傲りもない。
悠々と俺の前に出たセレン。
そしてその隣にはルーチェの姿もあった。
(理解できません。この期に及んで何ができるというのですか?)
「それは見てのお楽しみだよ」
ルーチェはにやりと笑む。
自信と不安が入り混じったような表情。
そういえば、この二人は今の今まで戦闘に参加していなかった。
一体なにをするつもりだ。
ここまできたら、信じるしかない。
こうしている間にも、砕いた【ゾハル】は再生している。元通りになってしまったら、ゲームオーバーは避けられない。
「フリジット・エンジェルハイロゥ」
セレンが祈るように呟くと、彼女の頭上に一輪の天使の輪っかが浮かび上がる。
ほのかに青白く光るリングは、膨大な魔力を凝縮したもの。その本質はあらゆる生命を奪う死のブリザードに他ならない。
かつてサーデュークを倒した最上級の戦闘魔法。
その威力が甚大であることは、疑う余地もない。
だけど。
通用するのか。
あの【ゾハル】に。
(なにかと思えば、性懲りもなく魔法ですか。そんなものをいくつ撃ったところで効果がないと、わかっているものかと思いましたが)
「じゃあ、試させてもらうね」
胸元のアイテムボックスを握り締め、ルーチェが一歩を踏み出す。
それと同時に、セレンがフリジット・エンジェルハイロゥを撃ち出した。




