オワタ
「俺がやろう」
サニーの声。
大剣を頭上でくるくると回し、瘴気に包まれた破片へと跳躍していた。
「キミ! いけるのか!?」
「ここでの力の使い方は心得ている。裏世界は、庭みたいなものだからな」
その言葉通り、サニーは目にも留まらぬ大剣捌きで、破片に無数の斬撃を浴びせた。
一息遅れて、漆黒の霧が突風に撒かれたように霧消する。
さらに遅れて、金色の破片がバラバラに散った。数え切れないほど細切れになっている。これぞ神業ってやつだ。悔しいが、剣技に関しては俺以上らしい。
さすがはサニー。自力で〈妙なる祈り〉の発現に至った英雄達の中で、ただ一人心が折れなかった男だ。
(ま、まだです……!)
いまや【ゾハル】の大破片は残り一つしか機能していない。このまま畳みかけるのが最善だな。
「ヒーモ! サニー! 最後の一個をやるぞ!」
「ああ! 任せたまえよ!」
「終わらせる……!」
極太レーザー怒涛の連射は止まっていない。俺はすでに何百回とレーザーとの剣戟を繰り返している。
一回一回がギリギリの勝負。すでに集中力は切れ、ほとんど反射で捌き続けているだけだ。
長くはもたない。限界などとうに超えている。
(公子さま、やっぱりあなたはすごい。人の身で【ゾハル】のパワーに対抗できるなんて。それに……支えてくれようとする仲間が、こんなにもたくさん)
エマの思念に、負の感情はない。
そこにあるのは素直な賞賛と感嘆。
だからこそ、恐ろしい。
(あなたにあって、あの子にないもの。それがやっと分かった気がします)
ああそうだ。
仲間に出会えたか、否か。
仲間を求めたか、否か。
仲間を受け入れたか、否か。
俺とエレノアの決定的な違いは、そこにある。
(だからこそ、あたしが勝つんです)
その声は、たしかに笑っていた。
今までずっと打ち続けていた極太レーザーが、突如として無数の散弾と化した。
それはあたかもハリネズミのように、大破片の周囲に向けて無雑作に放射される。
「これは……!」
「まずい……ッ」
今まさに取りつこうとしていたヒーモとサニーは、無数の光に貫かれ、四肢や胴体の一部を失いながら遥か彼方の虚空へと消えていった。
刹那の出来事。
にわかに信じられない。
(甘いです、公子さまは)
「……なんだと?」
(あたしが何も考えずただ攻撃していたと? 無限の力を有する【ゾハル】が、そんなことしかできないと思ったんですか?)
そんなことは思っちゃいないが、駆け引きの余裕を奪われていたのだから反論の余地はない。
(こういうの。飛んで火にいる夏の虫、って言うんですよね?〉
「そんな難しい言葉、よく知ってるな」
額に汗を浮かべ、にやりと笑うしかない。それが精一杯の虚勢だった。
大破片はあと一つなのに。
せっかく皆が繋いでくれた唯一無二のチャンスなのに。
この状況じゃ、迂闊に動けない。
俺が動けば、エマは必ず戦闘不能になった皆に攻撃を仕掛けるだろう。
仲間と恋人達を、人質に取られたも同然だった。




