総力戦
俺の気合に呼応するように、アデライト先生が頭上を飛び越えていく。
「みなさん! 再生される前に叩きます!」
飛翔の最中に大きく杖を振るう。
「カオス・フラグメント――フレイムボルト・レーヴァテイン!」
顕現するは濁った紫炎の豪剣。根源粒子を纏った最上級の戦闘魔法が、漆黒の虚空を切り裂いて迸る。
爆ぜるように燃え盛る紫炎に追随して、アイリスとアカネが【ゾハル】へと吶喊していく。
「二度目じゃ。よもやヘマはせんじゃろう」
「もちろんですわ。お任せあれ」
元通りになろうとする【ゾハル】の隙間を、紫に煌めく大火が埋め尽くす。混沌粒子を纏った炎は、確実に【ゾハル】の自己再生を阻害していた。
出来た隙は大きい。四つの破片のうちの一つに、アカネとアイリスが取りついた。
二人の拳足が怒涛の如き打撃を放ち、削岩機のように【ゾハル】を削り、砕き割っていく。
「サラ! ウチらも負けてられないっすよ!」
「うん。ボクの魔力、ぜんぶ使って」
「おーけーっす!」
ウィッキー、サラ姉妹が手を取り合い、互いの魔力を練り合わせていく。二人の羽織るマントが大きくはためいた。
強大な戦闘魔法の兆しが、核心部全体に波及しているのがわかる。
サラの有するドルイドの魔力。それはファルトゥールの神性の顕れだ。ウィッキーの精密すぎる魔力操作によって、神を殺し世界を歪める一撃にもなる。
サラの全身から迸る琥珀の波動が、ウィッキーの描いた魔法陣へと集束していく。
その超越的な威力を物語るように、サラの表情が次第に険しくなる。
ウィッキーの額から汗が流れ、白い頬を伝って落ちた。
「おねぇちゃん! これで……全部だよっ!」
「よく頑張ったっすね、サラ」
ウィッキーの手が、銃の形を真似て、破片の一つを指した。
「外しはしないっす……!」
マルデヒット族の姉妹によるシナジー。
極めて短く、甲高い射出音。
二人の前に浮かぶ魔法陣から、極限まで圧縮された魔力の砲弾が撃ち出された。
見ただけでわかる。ヤバいやつだ。
放物線を描いて飛翔した琥珀の砲弾は、音もなく着弾。その地点から空間を歪め、【ゾハル】の破片を捻じ曲げていく。
すげぇ。
(こんな……こんなこと、認めない……! 認めてたまるものですか!)
エマの叫びが世界に反響する。
(このっ……!)
四つのうち損傷の少ない二つの大破片が、突如として金色の光を放つ。
そのエネルギーにアカネとアイリスは弾き飛ばされ、ウィッキーとサラの魔法も無効化されてしまう。
「まじか……!」
こちらに吹き飛ばさてきたれアイリスを辛くも受け止める。
息はあるものの、ダメージは相当なものだった。
「マスター……攻撃の手を、緩めては……」
「わかってる。けどお前が」
「わたくしなら……大丈夫、ですわ」
そう言ってにこりと微笑むアイリス。だが、身体には微塵も力が入っていない。




