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想いが重なるその前に

 無数の惑星を粉砕するエネルギーが、俺というただ一人の人間に集中した。

 あまりの威力、そして奇襲じみた速度に、さしもの俺も手も足も出なかった。

 防御する暇もなく直撃を喰らった俺は、間違いなく跡形もなく消滅してしまった。


「ご主人様っ!」


 遠くで、サラの絶叫が聞こえる。

 次の瞬間には、俺は【ゾハル】のど真ん中に必殺のパンチを叩き込んでいた。


(はっ……?)


 エマの困惑が伝わってくる。


(どうしてっ……? 確実に滅したはずです!)


「生憎、俺にはまだ死神の加護が残ってるんでね」


 そう。

 デメテルに転生した俺は、スキルを授けられた。

 改良型『タイムルーザー』と『無限の魔力』だ。

 それらはスキルの起源であるエストから与えられたものじゃないが、スキルには相違ない。


 そして俺には、スキルを犠牲にして死から蘇るという加護が与えられている。

 エマの確信通り、俺は確かに死を経た。しかし『無限の魔力』を失うことで蘇生し、反撃の機会を得たというわけだ。


「重いだろ。俺の拳は」


 打ち込んだポイントから【ゾハル】に大きな十字の亀裂が走る。


「色んなもんを、背負っちまったからな」


 敵意と友情。

 憎悪と愛情。

 裏切りと信頼。


 絶望と希望。

 宿命と使命。

 そして、この世界に在る全ての生命の未来を。


「だからよ……エレノアぁ!」


 今一度、拳を振りかぶる。


「お前の全部、俺に背負わせやがれぇッ――!」


 炸裂の右ストレート。

 決意と、誓いと、願いと、祈りを乗せて。


 俺は【ゾハル】に、俺史上最強の一撃を叩き込んだ。

 鈍く、鋭い打撃音がこだまする。


(そ……そんな……!)


 十字の亀裂から弾けるように崩れ、【ゾハル】は四つの破片となって離れ離れになる。


(この【ゾハル】は、世界樹に記憶された中で最も強力な物質なのにっ……)


 はっ。

 なるほどな。

 エマは『ユグドラシル・レコード』に記録された情報を再現したってわけか。


 マシなんとか五世が【ゾハル】をこの世界に顕した以上、世界樹がそれを記憶するのは必然。

 だけどな。


「確かに【ゾハル】は大したシロモノだ。けどお前はそのじゃじゃ馬をマシなんとか五世みたいに使いこなせてねぇ。よしんばに使いこなせていたとして、エマ……お前じゃ勝てねぇよ」


(なにを……! このていど、まだ終わりじゃありません!) 


 世界樹と一体になり、究極の存在である【ゾハル】を顕現させても、エマは大事を一人で為そうとしている。以前の俺のように。

 今の俺を見ろ。

 ここにある力、俺が背負った数多の責は、いまや俺だけのものじゃない。

 共に背負ってくれる同志がいる。

 それぞれの想いで結ばれた、尊い仲間が。


(あたしはっ! 彼女の想いを知ってるんです! 女神じゃない……無邪気で、意地っ張りで、けれど真っすぐな……ただの女の子としてのあの子を!)


「俺だって知ってるよ。痛いほどな」


 エレノアの想いに気付かないわけがない。

 心に沁みないわけがない。

 エレノアに好意を、誰より知っているのはこの俺だ。


「けど……想いってのは、重ね合わせてこそ意味があんだよ!」

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