悪夢の再来
凄まじい覇気だ。
俺の知っているエマ・テオドアじゃない。
溢れ出る魔力量は、まさに無限。
エレノアの神スキル『無限の魔力』は、今やエマに宿っている。
「あたしは女神エレノアの現身として、彼女の願いを叶える義務があります! あなた方がデメテルを滅ぼそうというのなら――」
エマの広げた両手から鋭くも膨大な魔力が迸る。
あまりにも強烈な波動に、俺以外の全員が強く身構えていた。
「ロートスさん! 見て!」
アデライト先生が叫ぶ。
エマの魔力は世界樹に作用しているようだった。黄金の樹木は光の塊と化し、急速に膨張を始める。根元に立つエマを飲み込み、更に更に大きく膨らんでいく様は、あたかも遥か彼方から見る超新星爆発のようだった。
波及した衝撃波は、圧倒的な暴力となって核心部に立つみんなを巻き上げ、吹き飛ばした。
対応できたのは、アデライト先生、アカネ、ウィッキー、サニーと原初の女神か。その五人が、光の爆発に翻弄される他のみんなを救助していた。
その光景を横目に、ただ一人俺は泰然とその場に佇んでいる。
俺の仲間達がこれくらいでどうにかなるわけがないと信頼していたし、今はエレノアに正面から向き合う時だと思ったから。
俺の目の前には、見上げるほどに巨大な、光の柱がある。
いや、柱のように見えるが、厳密にはそうじゃない。
それは、あまりにも長大な、輝かしい黄金の書物。
「驚いたな……ここで出てくるかよ」
【ゾハル】。
世界の理から外れた超存在。
「そんな……! どうして……!」
離れたところからルーチェの驚きが届く。胸に下げたアイテムボックスを検めているようだ。
確かに【ゾハル】はアイテムボックスの中に収納したはずだ。
「ここは裏世界の核心部。何が起こっても不思議ではないのじゃ。とはいえ、流石にこれは予想しておらなんだが」
アカネに同感だな。
苦労して封印したはずの【ゾハル】が、こんなにもすぐにまた現れるなんて思ってもみなかった。
(あたしだけじゃ、あなた方に伍するので精一杯。でもこの【ゾハル】があれば、魔力だけじゃない、あたしの力は無限になる……デメテルを維持して、彼女の願いを叶えることだって……できるんです!)
エマの英気溢れる声を合図に、【ゾハル】の周囲に幾億もの光の球体が生じる。
それらは一斉に眩い光を放ち、無限の槍衾となって俺に降り注いだ。
俺は直感した。
この光の槍のひとつひとつが、惑星をも一撃で木っ端微塵にするほどの威力を有している。
かすりでもしたら、人間なんかあっという間に跡形もなく消え去るだろう。
物質を根源とする表世界でこれほどのエネルギーを持つ現象が生じれば、時空が歪んでいるはずだ。精神世界ならではのエネルギー量だな、これは。
そんな悠長なことを考えている場合じゃない。
正味の話、これはヤバいんだ。
超光速で迫る輝きの槍衾に、俺の視界は埋め尽くされた。




