〈八つの鍵〉
「世界樹を創ったのはおぬしみたいなもんじゃろう。何か妙案があるのではないか?」
アカネに同感だ。
事ここに至っては、あってもらわないと困る。
「方法はありますよ。みなさん、とっくにご存じだと思っていましたが」
どういうことだ。
皆が疑問を抱く中、原初の女神は足音もなく世界樹へと近づいていく。
そして、黄金の障壁にそっと触れた。
次の瞬間。
世界樹の根元から八方に白い光の筋が迸り、曲線的な紋様を描いていく。
「これは……魔法陣? いえ、この紋様は……」
「古代文字です。まだ人間がノームと呼ばれていた時代に使われていたと言われる……」
アデライト先生とルーチェの驚きもそこそこに、古代文字で紡がれた模様は世界樹を囲むように八つの円を描いた。
「これは錠です」
「錠?」
どうしてそんなものが。
「世界樹は、世界の根幹をなす存在です。世界樹が健在であるからこそ世界も保たれる。故に創世の三女神は、世界樹を害する存在が現れる事態に備え、強固な防衛機能を設けた。それがこの金色の障壁。エンディオーネはこれを〈拒絶の殻〉と名付けました」
「〈拒絶の殻〉か……言い得て妙だな」
すべてを拒絶し、何物をも受け付けない。
その中にエレノアが捕らえられているというのは、笑えない皮肉ではあるが。
「〈拒絶の殻〉は一度発動すれば最後、内からも外からも、互いに一切の干渉ができなくなります。しかし、ただ一つ〈拒絶の殻〉を解除する手段があります」
「あ……」
オルタンシアが何かに気付いたようだった。
「むかし見た……女神マーテリアの封印と、同じ」
その言葉で、俺も思い出した。
神の山の地下にあった、マーテリアを封じていたクリスタル。あれも〈八つの鍵〉が解放のキーとなっていた。
「ご名答。かつてマーテリアが囚われとなっていたクリスタル。あれはこの〈拒絶の殻〉を踏襲したものです」
なるほどな。そういうことかよ。
「そういうことなら、話は早いのです」
サラは迷うことなく、八つの魔法陣のうちの一つに乗った。
「ボク達が鍵なのなら、その役割を果たすしかないのですから」
「我が妹ながら、肝が据わってるっすねー」
いたく感心しながら、ウィッキーもサラに倣って隣の魔法陣に乗る。
姉妹は互いにふふんと笑みを向けあっていた。
「メイド長、わたくし達も参りましょう」
「……うん」
アイリスがのほほん然として促し、ルーチェは緊張した面持ちで答える。
意外なことに、オルタンシアは躊躇いなく魔法陣の上に乗っていた。
きゅっと唇を結び、俺とアナベルを交互に見て小さく頷く。母の自覚が女を強くするってのは、こういことなのかもな。
「最後の扉を開く時じゃな」
「ええ、永い旅路でした」
アカネとアデライト先生も後に続く。この二人の安心感は揺るがない。
その時、俺の背中がポンと叩かれた。しばらくの沈黙を保っていたセレンが、すぐ隣に立っている。
「どっちを選ぶ?」
「言うまでもないだろ」
「あなたの考えはいつも想像の斜め上をいく」
「そうかな」
「楽しみにしてる」
「え?」
「あなたの選択は、いつもあたし達を驚かせ、そして……導いてくれるから」
いつもよりはっきりと言葉を紡ぎ、セレンは最後の魔法陣へと歩いていった。
「……導く、か」
そんなつもりは毛頭なかったんだけどな。
いつも行き当たりばったりで、必死こいて目の前の問題に追われていただけだった。
みんなに助けてもらってばかりで、肝心な時だけ一人でやろうとして、バカな失敗してばかり。
それでも、そんな俺の生き様に導かれていてくれたって言うのなら、これまでの辛さも苦しみも、後悔も、すべて報われるってもんだ。
セレンが最後の円に立つと、世界樹から生まれた魔法陣が一層の輝きを放つ。
「鍵は揃いました。あとは、開くだけです」
「ああ」
俺は世界樹へと一歩を踏み出す。
「公子っ」
イキールの声が背中にぶつかるも、俺は立ち止まらない。
軽く手を挙げて答えるだけ。
「心配すんな。言っただろ? 誰にも文句のつけようのない、完璧なハッピーエンドを見せてやるって」
イキールだけに向けた言葉じゃない。
この場にいる全員にだ。
持ち上げた手で、虚空から生まれた剣を握る。
「いくぞ……エレノア……!」




