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アルバレスの守護隊

 彼女達は俺の前に跪き、深く頭を垂れた。


「主様。我らアルバレスの守護隊、ここに結集いたしました」


 誰一人欠けずに揃っている。あの窮地を切り抜けるとは、さすがはシーラ達だ。


「主様のご帰還を、なにより喜ばしく存じます」


 恭しい態度。そこに嘘偽りはない。

 だが、抗議の声をあげたのはサラだった。


「ちょっと待ってください。なんですか、その手のひら返しは。ご主人様に謝りもせず……シーラさん、一体どういうつもりですかっ。まったく訳が分からないのです」


 俺の隣で眉を吊り上げるサラ。怒りはもっともだ。


「いいんだサラ。シーラ達を責めるな」


「責めるなって……ご主人様はお優しすぎます。どんな事情があっても、裏切りは許される行為じゃないのです!」


「誤解するな。守護隊は俺を裏切ってなんかいない。むしろ、俺の為に身を粉にして働いてくれたんだよ。お前達と同じように」


「え……」


 サラがシーラの頭頂部を見下ろす。


「どういうことですか。説明してほしいのです」


 その問いはシーラに向けられたものだったが、彼女はすぐに答えようとしなかった。

 何を口にしようと、すべては言い訳にしかならないと理解しているのだろう。


 真実がどうであれ、守り従うべき俺に楯突いたのは事実。

 彼女達はそのすべての責を負うつもりだ。

 守護隊が待つのは弁明の機会ではなく、断罪であった。


 俺達の中には、シーラ達の真意に気付いている者もいるだろう。だが、誰も喋ろうとはしない。守護隊の意思を尊重しているのか。それとも、シーラの口から語られるべき言葉を待っているのか。


「黙ってちゃわからないのです……! あなた達守護隊が、ご主人様に弓を引くほどの理由があったんですよね? だからご主人様も許そうとなさってるんですよね?」


 サラの興奮した物言いに、俺は静かに頷く。

 誰も何も言わないのなら、仕方ない。俺が言うしかないじゃないか。


「エレノアを一人ぼっちにさせないためだ」


 俺の説明は、端的かつ核心のついたものだった。


「俺も最初はなぜ守護隊がエレノアについたのか分からなかった。けどな、一つだけ確かなことがある。こいつらは絶対に俺の真意に背くことはしないんだ」


「あの人に味方することは、ご主人様の意に反しているんじゃないんですか?」


「ところがどっこい。そういうわけでもない。女神になったエレノアは、理想の世界で一人ぼっち。味方なんて誰一人いない。前世界の記憶を持つ俺達は、エレノアの作った世界を否定し、元の世界を取り戻そうとしている」


 いくら自分が始めたこととはいってもだ。


「可哀想だろ、そんなの」


「じゃあ……シーラさん達があの人の側についたのって」


「結局のところ、俺が自分でも気づいていなかった本心に従ってたってことだ。なぁ? シーラ」


 俺がここまで説明してやっと、シーラは喋る気になったようだ。


「我らアルバレスの守護隊はどこまでも主様の望む結末のために命を捧げます。たとえそれが逆意であろうと、命に背くことになろうとも」


「そんな……」


 俺はサラの頭にポンと手を置いた。


「こいつらはこいつらなりにちゃんと自分の使命を果たそうとしてた。世界が創り変えられてからずっと、エレノアの傍にいてくれたんだ。俺には、したくてもできなかったことだ」


 サラはしばらく俯いていたが、ふと顔をあげてシーラの前にしゃがみ込んだ。


「そういうことなら、許してあげるのです」


 どこか拗ねたような物言いだったが、サラも内心喜んでいるのだろう。

 守護隊が本当の意味で俺を裏切っていなかったと知り、安堵しているに違いない。


「ごめんなさい。ありがとう、サラ」


 シーラも救われたような声色だった。

 サラとシーラは仲が良かったし、信頼関係も築いていたからなぁ。


 原初の女神におんぶされて眠っているウィッキーを一瞥する。

 この姉妹とシーラとの間には色々あった。わだかまりが完全に解けたとは言い難いが、それもこれから良くなっていくだろう。そう信じるさ。


「さぁ。行くぞ。無事に守護隊も戻ってきたことだしな」


 俺が号令をかけると、守護隊の面々は霧のように姿を消した。

 彼女達はあくまで俺の影、ということかな。


 再び歩き出した俺達は、まもなく丘の頂上に至った。

 大岩が鎮座する広い丘。

 その岩の下で、座り込んで瞑想するエマの姿があった。

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