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錚々たる面々

 アデライト先生は眼鏡をくいっと上げると、人指し指をぴんと立てた。


「一言で言えば、生まれ変わりです」


 その端的な説明を聞いた時、ここにいるほぼ全員がすっきりしたことだろう。

 まさにアデライト先生の言う通りで、生まれ変わりという言葉が一番しっくりくる。


 たとえば、現代日本で死んだ御厨蓮は、ロートス・アルバレスの生まれ変わりだ。

 そしてアインアッカ村で生まれたロートス・アルバレスと、デメテルの公爵家で生を享けたロートス・アルバレスも、肉体的には別人でありながら同じ本質を持っている。


 エレノアとエマも同じようなものだ。


「生まれ変わり……それって、死んだ人間が別の人間として生まれるってやつでしょ? 女神エレノアは、死んでるの?」


「人としてのエレノアちゃんは、すでに死んでいるといって差し支えありません」


 人としてはすでに死んでいる。エレノアはすでに人ではない。なんかモヤるぜ。


「でも、どうして現身なんてものを作ったのかしら?」


「それは本人に聞いた方がよいでしょうね」


 アデライト先生はイキールの疑問に答えるつもりはないようだ。

 とにかくだ。

 これで役者は揃った。

 俺は部屋を見渡す。


 サラ。

 アイリス。

 アデライト先生。

 ウィッキー。

 セレン。

 ルーチェ。

 オルタンシア。

 アカネ。


 永い時を経て再び〈八つの鍵〉が揃った。

 彼女達だけじゃない。


 ヒーモ。

 イキール。

 サニー。

 原初の女神。


 頼もしい奴らもいる。

 これはやばい。


 時が来ている。

 大業を成す時が。


「じゃあ、行こう」


 皆の視線が俺に集中する。

 口にしたは何の変哲もない呼びかけだったが、だからこそ場の空気を引き締めた。


 俺達は家を後にする。

 村の丘へと向かう中、俺は振り返り、生家の佇まいを目に映した。


「名残惜しいですか?」


 アデライト先生の耳打ちに、俺は首を横に振ろうとして悩み、やっぱり首を横に振った。


「何も感じないと言えば嘘になりますけどね」


「生まれ故郷というのは、忘れがたいものです」


「そう……ですね。そうかもしれません。けど俺には、たくさんの故郷がある」


 アインアッカ村をはじめ、コッホ城塞、デメテルのアルバレス公爵家。

 そして、現代日本。


「それが良いことなのか悪いことなのかはわかりません。ただそこには、特別な意味があると思ってます。いや、意味を見出していると言うべきかな」


 アデライト先生はにこやかに頷くだけで、何も言わなかった。

 この人は俺のことをよく理解してくれている。

 我が身に起こったこと全てに意味を見出し、前進の糧とする俺の思想は彼女と共通のものだろう。

 それは先生を含め、みんなとの関係の中で体得した、俺自身の生き方だ。


 だから、もう振り返らない。

 俺は丘を目指し、力強い歩みで進み始めた。


 あの丘にエマがいる。

 ロートス・アルバレスが『無職』となったその日、エレノアと語らったあの場所に、旅の終着点があるんだ。


 恐れはない。

 人生のクライマックスが訪れようとしている。


「ご主人様」


 ふと、前を歩くサラが立ち止まった。

 空気がざわつく。


 丘の中腹で俺達を待っていたのは、純白のローブを纏った十数人の女達。

 シーラ率いるアルバレスの守護隊であった。

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