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完全に理解した

 ずっとこうしていたいが、状況がそれを許さない。


「野暮な事を言うようじゃが、そろそろ話を進めんか」


 そうだな。誰も何も言わなければ、ずっとこのままこうしていたい欲に負けてしまう。

 アカネがきっかけを作ってくれた。こういうところは年の功か。そんなものは今更かな。


 俺はゆっくり二人から離れる。名残惜しいぜ、まったくよ。

 束の間の一家の時間を待ってくれていた皆が、改めて居間に集う。

 これからどうするかを話し合わなきゃならないけど、その前に気になることがある。


「アデライト先生はどこにいるんだ?」


 先に裏世界に来ているはずの先生が見当たらないのはどういうことなのか。


「先生は丘に向かった」


 セレンが窓の外を見る。


「知らない女の子を連れていたけど、あれは誰?」


「彼女はエマ・テオドアという。吾輩とロートスの……クラスメイト兼パーティメンバーだ」


 ヒーモの発言を受けて、セレンが俺を見る。


「ああ。ヒーモは記憶を取り戻してる。前世界とデメテルの記憶を共有してる感じだ」


「そう」


 補足したところで、ヒーモは話を続ける。


「エマくんはエレノア嬢の現身だ。女神たる彼女が人の身を具して現世に顕現するための端末。エマ・テオドアという人格を持ちながらも、その本質はエレノア嬢と等しい」


「ねぇ。それ、さっきも言ってたけど。別人なのに同じ本質を持つって、結局どういうことなの?」


 イキールがもっともな疑問を口にする。

 実は俺もよくわかっていない。いや、わかってはいるけど、言葉で説明するのは難しいって意味だ。


 なんというか、俺は大体の出来事を頭ではなく魂で理解しているからな。

 そういうのもアリだと思う。みんながみんな賢いわけじゃないのだから。

 そしてそれは、どうやらヒーモも同様らしい。


「ウーム。言われてみれば表現が難しいな。吾輩は、こう……概念を全身で感じているわけであって」


「なにそれ」


 イキールは呆れている。


「真理ってやつは往々にしてそんなもんだよ。決して吾輩が語彙に乏しいというわけじゃないんだ」


「屁理屈で誤魔化そうとしないでよ」


 いやしかし、ここにいる中で正確に説明できるのは、原初の女神くらいじゃないだろうか。みんな俺やヒーモと同じように、理解はできているけど他者に伝えられるほどじゃないって感じだろう。


「では僭越ながら私がご説明しましょう」


 その時、開け放しの扉から姿を覗かせたのは、なんとアデライト先生だった。


「おお。これはアデライト先生。なんとも懐かしい」


 ヒーモが嬉しそうに声を張る。

 わかるぞ。その気持ち。俺にはもっとわかる。


 先生は部屋の中の面々を見渡し、視線で挨拶をする。

 その眼差しをもって久闊を叙しているのだろう。


 そして最後に、俺にむけて熱のこもった視線を向けた。

 言葉はなかったが、彼女の想いは十二分に伝わった。俺の胸にも、燃えるように熱い感情が煮えたぎっていた。

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