聖女なのか女神なのか
「え」
ちょっと何言ってるかわからなかった。
二の句を失った俺に代わり、イキールが口を開く。
「ご、拷問って。そんな、どうしてよ」
前に出てきたイキールを、ルーチェは真正面からじっと見つめた。
「それが……私にもよくわからないんだ。あ、でも拷問っていうのは――」
俺はその言葉を遮って口を開いた。
「なぁルーチェ。みんなは、エマがエレノアの現身だってこと、知ってるのか」
「……エレノアちゃんの、現身?」
ルーチェの目つきが一変する。
「それ、どういうこと?」
どうやらそこまでは分かっていなかったみたいだ。
無理もない。ルーチェ達四人は永い時を俺の中で過ごしていた。まさかエマがエレノアのアバターとは思い至らないだろう。
実際、俺だって原初の女神がくれたヒントがなければ、エレノアのアバターが存在するという事実にさえ辿り着かなかったはずだ。
そう考えると、一人で答えを導き出したヒーモはすごい。エマと親密だったからこその結果かな。
とにかく、今はエマに会うことが先決だ。
「説明はあとでする。エマのところに連れて行ってくれ」
「うん。こっちだよ」
ガチで真剣な俺の様子を受けて、ルーチェはすぐに動き出した。世界の内部、聖域へと早足で進んでいく。
俺とイキールは頷き合い、ルーチェの後を追いかけた。
辿り着いたのは生命の間だ。『ユグドラシル・レコード』があった場所。
すこし前まであったエンディオーネの現身はすでになく、代わりに小さな木が生えており、そこにエマが拘束されていた。
あたかも磔にされたジャンヌ・ダルクのようだ。
「エマくん……なぜこんなことに」
ヒーモが沈痛な表情で首を振る。
俺も遠からず似たような気持ちだ。
エマは俺達のクラスメイトだ。パーティメンバーでもある。
そんな彼女が磔にされていたら心が痛むのも無理はない。
だからといって、完全にエマの味方をできる状況でもない。この胸がざわつくような感じはなんだ。
ひどく落ち着かない。
「む?」
「あら?」
磔にされているエマを見上げていた二人の後姿が、俺達の気配に気付いて振り返った。
「マスターではございませんか」
アイリスが相変わらずのほほんとした微笑みを向けてくる。磔にされた少女を前にしてその顔ができるのはお前くらいだよなぁ。
「いいところに戻ってきよったのじゃ。つくづく都合のいい男じゃのぅ」
のじゃロリ状態のアカネがそんなことをのたまう。都合のいい男っていう表現はすこし違うんじゃないだろうか。
まったく、この二人は通常運転だな。
すこし安心した。
「ロートスくん」
「ああ」
ルーチェに促され、俺はエマに近づいていく。
「二人とも聞いてくれ。ルーチェにはもう伝えたんだけど、このエマって子は、エレノアが創ったこの世界におけるアバター。現身のようなものらしいんだ」
核心をついた物言いに、アカネとアイリスは各々の反応を見せた。




