残酷なる未来
「うわぁ」
里はやばいことになっていた。
瓦礫が爆撃のように飛来し、地面には巨大なクレーターがボコボコ生じている。
家屋は見るも無残な姿になり果てており、世界樹の根も甚大なダメージを被っている。
エルフの里はまさに壊滅状態だ。
「これで人的被害ゼロ? どうやったらそんなことが……いや、そもそもエマの奴はなんでエルフを守るようなことを……」
エマが心優しい少女だということは理解しているが、それでも世界の敵となった〝ユグドラシル〟を構成するエルフを守るだろうか。
彼女は一般的なデメテル人としての価値観を持っている。たとえ世界の真実を知ったとしても、急に価値観が変わるなんてことはないだろう。イキールがそうだったように。
「本人に聞けばわかることだよ。行こう」
珍しくヒーモが真っ当なことを言う。
記憶と力を取り戻したこいつは、成熟した男の風格をなしている。ヒーモのくせに生意気だな。なんとなく頼もしい。
「アナベル嬢。エマくんはどこにいる?」
「あそこです」
アナベルが指したのは、世界樹の根元だ。木の股になっている付近だった。
瓦礫がところどころに積み上がったせいでよく見えないが、あそこって確か。
「聖域か?」
「うん。みんなあそこに避難してる」
「行こう」
俺は逸る気持ちを抑え、瓦礫の海を飛び越えながら進んだ。
聖域の入り口付近にはエルフ達が集まり、人口密度の高い空間を形成していた。
まさに避難所といった感じだ。
千にも及ぼうかという人数から、特定の人物を見分けられることができたのは、一重にエルフが露出の激しい装いだったからだろう。
エルフ達の間をせわしなく動き回るメイドの姿があった。
「ルーチェ!」
俺は彼女の名を呼び、一足飛びに駆け寄る。
「え……? ロートスくんっ?」
突然目の前に現れた俺に驚きの眼を開くルーチェだったが、すぐにぱっと花咲くような朗らかな笑みを浮かべる。
「びっくりした~。思ってたより早く帰ってきたんだね。おかえりなさい」
「ああ。まぁ、色々あってな……」
歯切れの悪い俺を見てすぐに察しがついたようだ。ルーチェは神妙な面持ちになった。
「なにかあったんだね。みんなを呼んでこようか?」
「いや……」
「うん?」
「エマって子がいるだろ? その子を呼んできてほしい」
俺の緊張感をもって言うと、ルーチェの表情がふと曇った。
なぜそんな顔をするんだ。
なんかあったのか。
「あのねロートスくん。そのエマって子なんだけど……」
ルーチェは眉尻を下げ、言いにくそうに言葉を区切る。
なんだ。
一体何があったというんだ。
「いま……拷問にかけられてるの」




