帰還復活祭
その後の記憶はない。
気が付けば俺は、暗闇の中で転がっていた。
「ん」
あれ、俺ってどうなったんだっけか。
たしかイキールと一緒に裏世界から脱出しようとしていたはずだけど。
「公子!」
これはイキールの声か。
「ねぇ! どこにいるの!」
くぐもった声。遠くから聞こえているのか。
いや違う。
俺は今、何かの下敷きになっているんだ。
これは瓦礫だろうか。いくつもの巨大な瓦礫が俺の上に積み上がっている。
何の瓦礫だよこれ。
「公子! いるなら返事をして!」
イキールの呼びかけに応えるべく、俺は全身に力を入れた。
そして。
ドカーンと、瓦礫を突き破って跳躍する。
寝そべった状態から何十トンもありそうな瓦礫の下から脱出するなんて、俺くらいにしかできないと思う。
イキールも俺を見上げてびっくりしていた。
今更そんな驚くことはなかろうて。
「ここは?」
イキールの目の前に着地した俺は、周囲を見回しながら尋ねる。
「エルフの森よ」
木々が生い茂っていた森は、見るも無残な状態になっている。爆撃でもされたのかと思うくらいにところどころ地面がめくれ上がり、植物は倒れたり千切れたり、砕かれたりしていた。
「コッホ城塞の瓦礫が落下したせいか……なんか、申し訳ないな……」
自然保護とは真逆のことを引き起こしてしまった。別にこの世界で自然保護なんか気にしてないけど。
それはともかく。
「表世界に戻ってきたか」
俺は自分の両手を見つめる。
邪気で補修した手も含め、完全に生身の肉体に戻っている。エンディオーネの鎌で自害した俺の身体は、どういうわけか完全復活を遂げていた。服も、非常にかっこいい感じのものを着ている。
おそらくこれは俺の【君主】としての力が働いたのだと思う。
マシなんとか五世が【ゾハル】を利用して上位次元から無限のエネルギーを供給していたように、俺も肉体を再生――否――創造したというわけだ。
「イキール。お前は無事か?」
「戻ってきて早々人の心配?」
「愛しの婚約者だからな」
舌打ちをするイキール。
「問題ないわよ。あんたに殴られた鼻も治っちゃってるし」
「殴って治して好感度アップ。とんだマッチポンプだな」
「はぁ? 好感度アップしてないから」
「そりゃ残念」
いつも通りおちゃらけているが、内心落ち着いていないことの裏返しだ。
ウィッキーは大丈夫だろうか。原初の女神がまだ間に合うって言ってたから、それを信じるしかない。
そんな俺の心中を察したのか、イキールは気まずそうにそっぽを向く。
イキールも何か思うところがあるのだろうが、正直そこを気にする余裕はない。
なんとも言えない沈黙が訪れたところで、土を踏む足音が近づいてきた。
「パパ!」
散乱した木々を飛び越えて、アナベルが駆け寄ってきた。
「帰ってきたのね。どうなったの? ママは?」
「ああ……オルたそには会えたよ。無事だった」
「……よかったぁ」
アナベルがほっと胸を撫で下ろす。これほど安堵している人間を、俺は見たことがない。
「ただ、まだ裏世界にいる。すぐに戻らないと」
「ママを残してきたの?」
「仕方なかったんだ。表世界からの干渉がひどかった」
言ってから気が付いた。
あの干渉は、一体誰の仕業なのか。




