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神か、あるいは人か

「女ってのはホント、度し難いな……」


 感慨深く呟くと、イキールの眉間がぐっと寄った。


「度し難いですって? そういう感想が出てくること自体、女を舐めてる証拠じゃない」


「ま、真摯に受け止めなくちゃいけないよな」


 俺はゆっくりと立ち上がる。喉元の切っ先は離れない。


「お前の考えはよーくわかった。エレノアの気持ちもな。というより、とっくにわかってたんだ」


「分かっていたなら尚の事――」


「俺にだって譲れないもんがある」


 俺は恐れることなく、突きつけられた剣を握り締めた。


「譲れないもの……? どうせあんたのことだから、ハーレムとか言い出すんでしょ」


「ああそうだ」


 手のひらに血がにじむ。


「は?」


「俺だって最初からハーレムを作るつもりなんてなかったさ。でもよ。モテるんだよ俺って」「異世界に転生してからというもの、かわいい女子達からモテてモテて仕方がねぇ。その中から一人選べって? はは、無理なこった」


「開き直るつもり?」


「そうかもしれないな。けどよ……こういう俗っぽい欲望が、この理不尽な世の中を生き抜く力になるんだよ」


 握り締めていたイキールの剣が、凄まじい握力によって粉々に砕け散る。


「なんたって俺は、人間だからな」


 驚愕するイキールの顔面に、渾身の右ストレートをぶちこむ。

 何か固いものが潰れるような鈍い音が鳴り、イキールは大きく後ろにのけ反った。


「わりぃなイキール。俺は剣よりこっちの方が得意なんだ」


 女を殴るのは気が引けるが、まぁいいか。イキールだし。

 打撃の勢いを受け、ふらつきながら数歩後退るイキール。

 鼻を押さえて俺を睨みつけるが、派手に鼻血が出ているせいでどこかコミカルな様相になっている。


「この……っ!」


 目に涙を溜めて上目遣いになってるイキールは、正直そそる。見てくれは絶世の美少女だからな。無理もない。


「おかしいと思ったんだ。女神の神性ごときで俺を圧倒できるわけがない。だってよ、俺には〈妙なる祈り〉があるんだぜ? 神性なんかもはや目じゃねーよ」


 イキールに近づきながら、俺は超絶イケメンスマイルを浮かべる。


「お前のその力はエレノアの神性じゃない。そいつは〈妙なる祈り〉。人間の可能性の極致だ」


 俺が近づけば近づくほど、イキールは同じだけ後退する。

 いつの間にか形勢は逆転していた。


「結局、神にはなりきれなかったんだな。エレノアは」


「彼女が女神になった時、神性が不完全だったから――」


「違う」


 そうじゃない。


「仮に神性が完全だったとしても、あいつは神にならなかった。いや、なれなかっただろうさ」


 俺の全身に〈妙なる祈り〉の不可思議パワーがみなぎっていく。


「エレノアの心は今も昔も、人のままなんだからな」


 イキールの強さの正体がわかった以上、俺が遅れを取ることはない。


「終わりにするぞ」


 俺は、自らが最強と信じる拳を、一切の手を抜くことなく、目一杯の力で叩き込んだ。

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