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創世の女神の力

 エレノアが吼える。

 およそ人のものとは思えない咆哮がジェルドの里を支配する。

 その裂帛の気合が、燃え盛る火炎を一瞬にしてかき消した。

 俺の魔力すべてをこめた全力の魔法をこうも簡単にかよ。自信失くすぜ、まったく。


「油断したわ」


 エレノアの胸に埋まっていたイキールが、その中からずぶりと姿を現した。


「剣だけじゃなくて魔法も達者なのね。そんな力を持ちながら世間にはボンクラ公子と呼ばせてたなんて、笑っちゃうわ」


「力ってのは隠しておくもんさ」


「私は誇示し続けたけどね。正当な評価のために」


「そういう考え方もある」


 そんなことはどうでもいい。


「デメテルでの話はもういい。あの世界に未練はない」


「私にはあるわ。彼女にもね」


 エレノアの全身が光り輝く。

 その輝きはにわかに強まり、人の形を崩し、イキールへと集まっていく。

 まもなくそれは、輝かしい光輪となってイキールの背中を飾った。


「女神の極光」


 剣を持ち上げたイキールの輪郭が、ぶれる。

 次の刹那。眼前に迫る剣。


「ヴっ……!」


 速すぎる。

 先程のイキールの数十倍は速くなっている。

 あいつは『剣聖降ろし』で俺を降ろしている。つまり、今のイキールは俺の数十倍は速いってことだ。


 辛うじて初撃は防いだが、次はどうなるか分からない。

 これはマジでやばい。


「うおおッ!」


 俺は最大限コンパクトな動きでイキールの胴体を狙う。

 当てることを意識した攻撃。

 だがイキールは超光速の動きでバックステップし、楽勝で避けていた。


「遅すぎね」


 冷淡な表情。


「女神エレノアは私の使命に賛同してくれた。彼女の願いと私の願いは共に同じ。だからこれほどの力が出せる。私と女神の心は一つなのよ」


 背の光輪が光を放つ。目が眩むほどの爆光。

 俺はその波動に煽られ、体勢を崩す。


 それが隙となった。

 俺はイキールに首を掴まれ、石の壁に叩きつけられる。

 呼吸が阻害され、首の骨が軋む。声をあげることもできなかった。


「ねぇ公子。どうしてわからないの? どうしてわかってあげないの?」


 なんて力だ。

 速さだけじゃなく、力も数十倍になっている。


「彼女はあなただけを見てた。他の男には目もくれず、ずっとあなただけを愛していたじゃない!」


 俺はイキールの手首を掴んでなんとか引きはがそうとするが、びくともしない。

 この細腕にどれだけの力を秘めているのか。


「それなのにあんたって男は……健気な女を馬鹿にして!」


 イキールの手に力がこもる。

 押し付けれらた石壁がバラバラに砕け散り、俺は王宮の中に放り出された。

 固い床を転々と転がり、激しく咳き込む。気道が潰れていないのがせめてもの救いだった。


「一生わからないんでしょうね……あんたみたいな、女をコレクションか何かと勘違いしているような欲深なクズ男には」


「はは……言ってくれるな。これでも俺には俺のポリシーっつーもんがあんだよ」


「いいえ。それは信念なんて高尚なものじゃないわ。ただ臆病なだけ。たった一人の為にその他を切り捨てる勇気を持たない臆病者」


 イキールの剣が、俺の喉元に突きつけられる。


「だから分からないのよ。女の一途な愛がどれだけ強くて美しいか。知ろうともしない」


 一息で殺せる距離。

 俺の生殺与奪は、完全にイキールの手中に握られていた。

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