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避けられぬ悲劇の始まり

「なんだありゃ!」


「エレノアの顔面がこっちに落ちてきてるんすよ!」


「見りゃわかるわそんなん!」


 わかるけど、信じられない光景だろ。

 幼馴染の巨大化した真っ白な顔面が空に浮かんでるってだけでもやばいのに。すごい勢いで落ちてくるって、一周回って感心するわ。


「ウィッキー! 避けろ!」


 俺とウィッキーは、とにかく距離を取ることを優先した。

 不測の事態にはこうするしかない。

 妨害しようなんて発想は生まれなかった。それくらい衝撃的な光景だったから。


 エレノアの顔面は、地上に近づくとにわかに落下速度を落とし、ぐるぐると回転して角度を調整していた。

 そして、イキールの後ろに立つ巨大な胴体とドッキングする。


「合体……っすか?」


「首と体がくっつく。完全体の爆誕ってか? ショッキングだな」


 そもそもなんで頭と体が別れていたのか。そこからだろ。


「女神エレノアは自制していたのよ。人の身から神になった彼女は、その強大な神性を持て余していた。だから、自身の神性を二つに切り離すことで世界の均衡を保っていたの」


 イキールが懇切丁寧に解説してくれるが、俺には皆目わからん。


「デメテルの平穏を維持するために、神性が暴走しないようにしてたってことっすね」


「そうね。彼女は未熟な女神だから」


 振り返り、完全体となったエレノアの化身を見上げるイキール。


「同情するわ。誰よりも人らしい願いのために、人であることを捨てるなんてね。そこまでしても彼女の願いは叶わなかったけど」


 エレノアの顔面は、今も苦しげな表情を浮かべている。

 表世界の干渉のせいか? イキールがここに来たのだから、それも緩和されていると思ったけど。


「ねぇ公子。あなたはどうして彼女を選ばなかったの?」


「選んださ。俺はちゃんとあいつを受け入れた」


「他の女達と一緒にね」


「俺はハーレム原理主義者なんだよ」


「……救えない」


 イキールの声は、失望の響きがあった。


「心外だけれど、使命だからね」


「なに――」


 反応する暇もなかった。

 エレノアの目から放たれた青白い閃光。一条のレーザーとなったその輝きが、ウィッキーの胸をこれ以上ないほど性格に貫いていた。


「あ」


 なにが起こったのか理解していないようなウィッキーと、目が合う。

 それから何を言うまでもなく、彼女はその場に倒れ伏した。


「ウィッキー!」


 即座に駆け寄る俺。


「おい! おい大丈夫か!」


 すぐさま医療魔法をかけるが、効果は微塵もない。

 呼びかけても揺さぶっても、すでにウィッキーに反応はなかった。


「おい……ウソだろ……」


 俺の腹の奥から、沸々と湧き上がる不確かな感情。

 これは一体なんだ?

 わからん。わかりたくもない。


「イキールてめぇッ!」


 火を吐くような俺の怒声とは対照的に、イキールの瞳は氷河のごとき冷たさを湛えている。


「〈鍵の八女神〉には消えてもらうわ。あなたの隣を陣取る女達を排除すれば、きっと彼女も報われる」


 そうしてエレノアの化身は、王宮の屋根へと視線を向けた。

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