最終の決戦
「見つけた」
その目には意志があった。
なにがなんでも成し遂げるという意志が。
だから俺の身体は、半ば反射的に動いていた。
守ったら負ける。虚空から剣を抜き一瞬で切り込む。
「シッ――」
俺とイキール。お互いの剣が鈍い金属音を轟かせて激突した。
それも一瞬。
俺の剣は力点をずらされ、華麗に受け流される。
それに逸早く反応した俺は、全身を大きく回転させて大ぶりな回し蹴りを放った。
イキールが細い顎をあげ、紙一重でかわす。
空振りの勢いのまま間合いの外に脱し、俺は改めて剣を構えた。
「腕をあげたな、イキール」
「どうかしら。これは借り物の力だしね」
「なに?」
「『剣聖降ろし』よ。知ってるでしょ?」
ああ、知ってる。
そいつは前世界でイキールが持っていたスキルだ。その名の通り過去の剣聖の剣術をこの身に宿らせる。古今東西の剣を極めし英雄の力を、一時的に自分のものにできるなんて紛うことなき神スキルだ。
「俺に匹敵する剣士が過去にいたってことか? 俺もまだまだ鍛錬が足りないな」
「謙遜することはないわ。あなたは私が知る中で最強の剣士」
イキールが剣を構える。
その構えは奇しくも俺とまったく同じだった。
「私が降ろしているのはあなたよ。公子」
なんと。俺だったのかよ。
『剣聖降ろし』は死んだ者しか降ろせないとばかり思っていたんだけどな。
いや、死んでたな俺。何回も。ついこの前も自分で首を落としたばかりだ。
「愛しの婚約者に選んでもらえるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ」
「そのふざけた軽口。相変わらずね」
「嬉しいのさ。シンプルに」
「私は……この上なく不愉快よ!」
熾烈な剣戟が始まる。
イキールの剣はまさに絶妙であった。
パワー。スピード。テクニック。駆け引きに至るまでが超越的な次元に達している。
そりゃそうだ。なんたって俺の力をそのまま模倣しているんだ。強くないわけがない。
「覚悟を決めたみたいだな」
「ええそうよ。私は、デメテルを守るッ!」
剣と剣が弾き合う音が断続する。かと思えば互いに空振りが続き、水のせせらぎが耳に入る。
潰し合うように、あるいは舞踊を共にするように、俺達は鎬を削り合っていた。
「偽物だと知った上でか?」
「ふん。本物なんてものがあるから、偽物が生まれるのよ」
一手のミスが命取りになる死闘。
その中でイキールは、勝利をもぎ取る執念に燃えていた。
「私がデメテルを真実にする。眠ってる本物の世界を、殺すわ」
決意と覚悟のこもった一撃。
かつてなく重たい斬撃を受け止め、俺の足は止まってしまう。
「それがお前の答えか」
「答えじゃなく使命よ」
「一緒だろうが」
鍔競りの形になったところで、ついにエレノアの体が動き出した。
大きく腕を振り上げたかと思うと、力いっぱい振り下ろす。
おいおい。イキールごと潰す気かよ。
これはまずいぞ。イキールの剣を防いだままじゃ、対処できない。
だが、俺にはわかる。
こんなときこそ仲間の助けが必要なんだ。
「ロートス!」
割って入る美声を合図に、エレノアの腕が爆発四散した。
空から飛んできたウィッキーが、見事な攻撃魔法を叩き込んでいたのだ。




