もっと早く言って欲しかった
「サラ……?」
ウィッキーが目を丸くしている。
俺はウィッキーの背中を押してやり、サラの方へ行くよう促した。
「サラ!」
駆け寄った姉をしっかり抱きとめて、サラは慈しむような笑みを浮かべる。
「サラぁ……ようやく会えたっす……! 元気にしてたっすかぁ?」
「うん。元気にしてたよ。おねぇちゃんに会えなくて、寂しかったけど」
「うぅ……ウチもっすよぅ」
「はいはい。もう泣かないの」
泣きじゃくるウィッキーと、それをなだめるサラ。
これはあれだな。オーサの真似をするわけじゃないが、いわゆる尊いでやんすってやつだな。
俺の顔にも自然に笑みがこぼれる。
「あれじゃ、どっちが姉かわからないな」
「師匠は人情家」
いつの間にか隣に立つセレンがぽつりと呟いた。
感動の再会なんだ。水を差すつもりはない。
とはいえ。
「状況は?」
気持ちと表情を切り替え、セレンに問う。
「守護隊のほとんどは暴走したムーディちゃんにやられてる。あたしも守護隊と交戦したけど、あまり深追いはされなかった。そのおかげであの子と合流できた」
「サンキュなセレン。サラを守ってくれて」
「とーぜん」
王女然としたセレンの佇まいは、やはり凛々しくも美しかった。
「サニーと原初の女神は?」
「わからない」
「そうか、俺もだ。こっちはシーラとレオンティーナを倒したから、残りの守護隊はあの二人のところに行ってるのかもな」
サラとウィッキーが尊いやり取りをしているのを見ながら言う。そんな俺を、セレンはもの言いたげな瞳でじっと見上げていた。
「どうした?」
「守護隊の目的はなに?」
「……ふむ」
核心をつく質問だな。
「アルバレスの守護隊はあなたを守り助ける。それが唯一の使命のはず」
「そうだ」
「けれど、世界が創り変えられてからのあの人たちはどこかおかしい。使命に反する行動を続けている」
「そう見えるか?」
セレンは首肯する。
「それならいいんだ」
「いいって?」
「あいつらにはあいつらなりの考えがあるのさ。使命との向き合い方の問題だ。俺は守護隊のひとりひとりを人として尊重している。忠誠も裏切りも、あいつら自身の意思に任せるつもりだ。それが信じるってことだろ?」
「あなたがそう言うなら」
納得いかない風な雰囲気を出すセレンだが、それ以上は何も言わなかった。
セレンもまた、俺に全幅の信頼を置いているが故だろう。
「これからどうする? ウィッキーは、ムーディたんが希望になるって言ってたけど」
「そう。ムーディたんの放つ邪気は、裏世界を歪ませ、核心部へと向かう鍵になる」
「核心部?」
「裏世界の中枢。つまり、エレノアの心の中」
なるほど。そういうことか。
表の世界の本質が裏世界にあり、その中枢が核心部にある。
なら、そこに行って何らかのアクションを起こせば、何かしらの結果が得られるってわけだな。なんとなく理解した。
「でも時間がない。外部からの干渉が核心部に及ぶ前に行かないと、取り返しのつかないことになる」
「取り返しのつかないことって、具体的には?」
「世界が終わる」
「なに……?」
「眠るでも創り変えられるでもなく、文字通り跡形もなく消滅する。そうなったら、もう復元はできない。一巻の終わり」
「だったら急ぐしかないわな」
鍵はムーディたんか。
サニーと原初の女神の行方は不明だが、合流を待ってはいられない。
あいつらなら大丈夫だろうし、俺達は先を急いだ方がいいか。
「ムーディたんを連れて核心部への入口に向かう」
「どこにある?」
セレンは図書館の天窓を見上げ、こころもち強く声を紡いだ。
「マッサ・ニャラブの幻影。その王宮の中に」




