うだうだ
「……どういう、ことっすか?」
「エレノアはずっと苦しんでた。俺があいつだけを選ばなかったから」
ロートス・アルバレスに転生してから一番最初に親しくなったのがエレノアだった。
今になって思えば、アインアッカ村にいた頃からエレノアは俺のことを好いていてくれたのだと思う。
「あいつは俺のことをずっと好きでいてくれた。俺だけをずっと見てたんだ。けど俺はあいつの想いを受け止めきれなかった。それどころか、屁理屈をこねてわがままを通そうとした。そんなことしたら歪みができるってわかってたのに」
エレノアは俺の屁理屈をなんとか消化しようとしてくれていた。俺はそれに甘えていたんだ。
俯く俺の手を、ウィッキーが両手で握った。
「そんなの……ロートスのせいじゃないっすよ」
絞り出すような声だった。
「だって、みんなそれで納得してたっす。ウチもサラも、先輩だってそうっすよ。みんなロートスのこと大好きっす。でも、独り占めしようとか、自分だけを見てほしいとか、そんな欲張りでわがままなこと一言も口にしなかったっす! そりゃ……これっぽっちも思わなかったって言うと、嘘になるっすけど……」
このあたりは価値観の違いなのかもしれない。
現代日本から転生してきた俺達との違いだ。
「プロジェクト・アルバレスで生み出された俺とエレノアは、ウィッキー達とはズレてるんだと思う。なんせ異世界からやってきたんだからな。それは俺にとってはいい方向に働いたけど、エレノアにとっちゃそうじゃなかった。ハーレムを作りたいっていう俺の望みは叶って、たった一人愛される女になりたいっていうエレノアの願いは欲張りだと言われる世界」
言いながら、俺は首を振った。
「いや、そうじゃないな。結局は俺がエレノアを傷つけちまったんだ」
デメテルに再転生してからずっと考えていた。あいつの行動原理は一貫して俺への想いから生まれていた。
魔法学園で努力していたのも、戦争で英雄になったのも、聖女として祭り上げられていた時でさえそうだ。そしてついには自らを女神に仕立て上げ、世界そのものを創り変えてしまった。
俺を守るため。俺を助けるため。俺を探すため。そして俺を独占するために。
「これを言ったらクズ男まっしぐらだけどよ。あいつが自分だけを見てほしいって言った時に見限るべきだった。潔くあいつをフるべきだったんだ。なのに俺は欲を出してエレノアを欲しがった。俺が撒いた種なんだよ、ぜんぶ」
「ロートス……そんな風に言われたら、ウチの想いはどうなるんすか。ずっとずっとあの女への恨みを募らせてきて、やっと仕返しができるって思ってたっす。ウチらの世界を取り戻して、一泡吹かせてやれるって」
「恨むなら俺を恨め」
「そんなの……っ!」
瞳を潤ませ、俺に縋りついてくるウィッキー。
昂る感情に任せて言葉を吐き出そうとした時、部屋にパンパンと手を叩く音が響いた。
「はいはーい。そこまでー」
俺とウィッキーははっとする。
「まったく。ご主人様もおねぇちゃんも、面倒くさい人なのです」
セレンを伴って現れたのは、呆れた表情のサラであった。




