となりのアイツ
いいじゃねぇか。対エレノアの予行演習だ。
俺は虚空から剣を抜く。その動きは神速だ。抜剣の勢いを加速させて放つ回転斬り。
真円を描く斬撃が、双方から迫る極太レーザーを切り裂く。究極の破壊エネルギーを秘めた攻撃だったが、あらゆる概念を斬る俺の剣の前では無力。
エレノアの神性を享けたといっても、結局は俺の理解の範疇を超えてはいない。
「神性に頼っているうちは、逆立ちしても俺には勝てないって」
剣を振り抜いた俺の懐に、シーラとレオンティーナが肉薄する。
「お命、頂戴します!」
「芸がない」
大技を防いだ隙に接近して攻撃。王城と同じ戦法じゃねーか。
俺は連携攻撃をひらりとかわし、ジャブを打つことで二人を昏倒させた。
勝負ありだな。
「悪いな。二人とも」
極太レーザーの余波で書庫はえらいことになっていた。本棚は砕け散り、本は散乱して散らかり放題だ。
「けど、あれだな。図書館に漂う異様なオーラは、お前らのもんじゃないな。他にもっとヤベー奴がいるだろこれ」
みんなが心配だ。特にサラは戦闘能力に乏しい。はやく合流しないと。
邪悪なオーラが濃くなっている方に向かうことにしよう。そこに発生源があるはずだ。
俺は感覚を研ぎ澄まし、書庫を後にする。
書庫を出ると一階の広い空間が目の前に広がった。一般貸出用の本が陳列されているコーナーだ。俺とセレンが勉強していたのもここだった。
この場所は窓が多く、外の光を取り入れて明るい空間を演出していた。
「やけに静かだな。ここには誰も飛ばされなかったのか?」
なんとなく厳かな静謐がある。空間に漂う不愉快なオーラさえなければ、いい場所だと思えたんだけどな。
そんな暢気なことを考えていると、唐突に近くの本棚が爆ぜた。
木製の巨大な本棚が四散し、壊れた本が紙をばらまく。
それがいくつか続くと、本棚の破片や紙片と共に、何人かが床に落ちてきた。
「守護隊……?」
ローブを纏った守護隊の面々。戦闘に敗れたのか、彼女達はすでにボロボロになっており、まともに動ける状態ではない。
どういうことだ。仲間の誰かがやったのか?
いや、エレノアの神性を享けた守護隊をこうも圧倒できるやつは、同行者の中にはいないはずだ。
俺の頭上に影が差す。
崩れた本棚を踏みつけて出現したのは、見上げるほどに巨大な猫だった。
「ネコ……だと……?」
流石の俺も驚いた。
まさかこんなタイミングで、大型バスほどもある三毛猫が出てくるなんて思わないだろう。バスではないけど、こいつはまるでネコバスだ。
ネコバスは可愛げのある大きな瞳で俺を見下ろす。
「デカすぎんだろ……」
ぱっと見は愛らしいけど、その巨大さゆえに気味が悪い。得体の知れない存在だ。
俺が剣を握り締めると、その戦意に反応したのか、ネコバスはキッと目を細めた。そして、首を大きく動かしながら鳴き声を轟かせる。
にゃ~、という鳴き声は猫そのものだったが、ボリュームがとてつもなくデカい。建物が震え、部屋中の本棚から本が落ちてくるほどだ。俺も思わず眉を顰めちまった。
だがそれよりも。
「ハッ……お前かよ。この禍々しいオーラの持ち主は」
図書館に充満する邪気。
それは、目の前のネコバスが生み出していたのだ。




